混本

□寵愛
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・✖︎✖︎✖︎×武蔵 
※(始まり。)の後の話。壊れた後の話。
(選択肢)

ある城のある一室で一人眠っていた少年は、ふと何かの気配を感じ目を開けた。

「…起きたのね」

「?」

「…ごめんね武蔵…私の力が弱いせいで、貴方までこんな風になってしまって…」

少年…武蔵の側には、美しい女性が座っていた。
武蔵の頭を撫でる彼女に、しかし彼は反応しなかった。彼にとって彼女は誰か分からないのだ。

「…貴方が望むなら、私の力でこの場所から出ることができるの。…だから、望んで。ここから逃げたいと」

女性にとって武蔵は愛しく大切な子供だった。
そのため、あの外道達のせいで手足も動かず、意思もないまま愛玩されるだけの生活をこれからも送らせたくなかった。今もどうだ。チラリと女性は武蔵の姿を見た。
彼の体にかけられた美しい服は、元々彼のものではない。そればかりか、隙間から見える跡も酷く生々しかった。僅かに香る香りは誰のモノか。
不快な顔をしながらも、女性は更に部屋を見た。見張りもつけず、扉には鍵がかかっていない。武蔵が逃げ出す事はないと彼らが考えている事が分かってしまい更に不快だった。


実際、彼の足は腱が切れている。動くことなぞ出来ない。それに精神が幼い彼が進んで動くことなぞしないだろう。


外道達がいないこの時間だけがチャンスであるが、時間はない。
彼が頷いてくれれば、この体を少しだけ動かして、彼の仲間たちのもとに連れ出すことができるのだ。

「…アー」

「怖がらないで。私はあなたの味方よ。」

しかし、武蔵は動かない。むしろフルフルと震えるだけだ。あーうーと小さく呟いて泣いている。

それが酷く可哀想で、女性は武蔵を抱きしめた。

「…声に出さなくても良い。心から願って。戻りたいのか、そうでないのか。」

戻りたいと願って欲しい。
このままここにいれば、彼はもう後戻り出来ない。
どんな目に会うか分からない。

「……ー」

女性の体に顔を埋めながら、武蔵は目を閉じた。


声に出なかったけれど、武蔵の言葉を女性は聞こえた気がした。
女性は目を見開き、彼を強く抱きしめてやった。
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