その他短編

□僕の罪、彼女の愛
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────僕は、紛い物

今となってはUTAUとして自分の声を持った僕──重音テト。
「嘘」でしかなかった僕が、「紛い物」になれた。

嬉しい/悲しい
ありがとう/ごめんなさい
消えたくない/消えてしまいたい
相反する感情。
それはきっと、僕が一生「紛い物」でしかいられないからなんだろうな、とぼんやりと考える。

「……、テ…………。」

そう、「紛い物」なのだ。
結局VOCALOIDにはなれはしない。

「テ…ち…ん!」

でもあの時そのまま「嘘」として消えるのは、悲しかった。
みんなを騙し、有りもしない名を語った癖に、赦されたかった。

──でも

「テトちゃん!」

「うわっ!?」

「もー! さっきから呼んでるのに無視するなんて酷いよ!」

「ごめん、考え事してて気付かなかったよ。で、ミク、何のよう?」

「あ、あのね──」

彼女、初音ミクと出会ってから、心に燻る罪悪感。
あれだけ、歌いたかった癖に、消えたくなかった癖に、彼女の前では──否、彼女達の前では歌いたくない、消えてしまいたくなる。
それはきっと、彼女達が純粋で真っ直ぐだから。

「今度、みんなで一緒に歌いたいなぁって思って誘いにきたの!」

「……僕も?」

「うん!」

ミク達は、自分達を騙していたのに、まるで気にしていない。

受け入れてくれる事が嬉しくて/優しくしてくれる事が辛くて
ずっと一緒にいたくて/今すぐに離れたくて
綺麗なみんなと歌いたくて/汚れた僕は歌いたくなくて

反発しあう願望。

「……そのうちね。」

結局僕が返すのは、どっちつかずの言葉。
肯定でなく否定でないその場しのぎの逃避。

「テトちゃん、いっつもそう言って歌ってくれないよね。……ミク達と一緒に歌うの、イヤ?」

残念、逃げきれなかったようだ。

「イヤ、ではないよ。ただ──」

──待て、僕は何を言おうとした?

罪悪感? そんなの、ミク達には言うべきでないに決まってる。
どうせ、優しく受け入れてくれてまた辛くなるだけだ。
慌てて口を噤む。

「ただ……?」

「何でも、ないよ。」

「嘘だ。」

「嘘じゃない。」

ミクは、一歩も引く様子はない。
どうやって誤魔化そう……?

「えっと──」

「……テトちゃんは、ずっと、辛そうな顔してる。ミク達と一緒にいて、お話してても、いつも辛そうで悲しそう。ミク達と一緒にいるの、イヤ?」

「そんな訳ない!」

僕の言葉を遮るように話し出したミクの言葉を咄嗟に否定する。
一緒に居たくないなんて事、あるはずがなかったから。

「でも──」

「僕だって一緒に居たいよ! みんなと歌いたいし話したい! でも、みんなを騙してた僕に所詮『紛い物』の僕にそんな思いは分不相応過ぎるんだ!」

ミクの言葉を遮って、秘めていた想いが、口から溢れ出す。
もう止まらない。

「いつもいつもいつも! いつだってどんな時だって一緒に居たい! 僕にそんな権利有るわけもないのにね!」

ミクは黙って僕の言葉を聞いている。
僕は止まらない。

「なのに! 君達はそんな僕に優しくして受け入れて! 馬鹿だろう! 自分を騙していた相手だぞ!?」

僕の言葉は止まらない。
目から、涙が流れるが気にせずミクに想いをぶつける。

「優しくしないでよ! 否定してくれよ! そしたら、諦めもつくし、当然の帰結だと受け入れられる!」

僕は──止まらない。

「僕なんて放っておいてくれれば良かったのに! あの時、消えておけば──」

「駄目だよ。」

僕の言葉が遮られると共に感じる優しい温もり。
──ミクに、抱きしめられている……?

「ごめんね。テトちゃんの気持ち、考えてなかったよね。──本当は何処かで誰かに否定されるんじゃないかって怖かったよね。」

「みんな、テトちゃんが来てくれて本当に嬉しかったの。エイプリルフールの時、実は嘘だって聞いたときに本当に残念だったから……。」

「な、んで……?」

僕はみんなを騙してたのに?
みんなに嘘を吐いてたのに?
──僕は『紛い物』なのに?

「みんな、テトちゃんが大好きだから、だよ。」

ミクは、僕を強く抱き締める。

「嘘を吐いてたとか関係ない。だって今テトちゃんがいるのは本当だから。」

「『紛い物』なんかじゃない。だって、ミク達が好きになったテトちゃんは今此処にいるテトちゃんだから。」

「だから、独りで泣かないで、テトちゃんは独りじゃないから。否定を怖がらないで、誰もテトちゃんを否定しないから。」

ミクはそう言って僕を離し、僕の涙を拭う。

「……全く、本当に、君達は実に馬鹿だな。」

思わず、笑みが零れる。

こんな僕を受け入れてくれるなんて、優しくしてくれるなんて、抱き締めてくれるなんて、みんな大馬鹿だ。

でも──

「テトちゃん、一緒に歌おうよ!」

「──うん!」

だからこそ、僕は 彼女 ミク 達に惹かれたんだ。





まだ罪悪感は消えそうにないけれど

一緒に居ても良いですか
一緒に笑っても良いですか
一緒に歌っても良いですか

その答えは、これから見つけていこうと思います。

──大好きな 彼女 ミク 達と一緒に





End.
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