Short Dream
□夏祭りに行きましょう
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ケースA石神先生と夏祭り
「…」
「…」
どうしよう…
やっとの思いで石神先生を夏祭りに誘ったのは一週間前、夏休み前最後の学校の日。絶対断られると思ったから、イエスの返事をもらったときは飛び上がるくらいうれしかった。
でも実際来て見るとこの沈黙。
ひとごみは苦手だったのかもしれない。こんな人だらけのところ、早く抜けてしまいたいのかもしれない。
先生は私の少し前を淡々と歩いている。というより私が先生の後ろについてしまう。申し訳ない気持ちで、隣に並べない。
先生の背中はいつもよりさらに猫背なような気がした。
張り切って浴衣なんて着て、ホント、馬鹿みたい…
「…さん、」
「えっ!?な、なんですか?」
まさか先生から話しかけてくるなんてこと考えてなかったから、突然呼ばれて思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「何も買わないんですか」
「…え?いえ、あの、買います」
「どれですか」
「…え?」
「どれにするんですか、と聞いているんです」
先生は淡々と言った。
「え、えと、…あ、あれ、りんご飴にします。買ってきますね」
屋台へ行こうとすると、先生の腕が私の肩をつかんだ。
「買ってきます」
「え!?いえ、」
悪いです、そう言おうとしたのに先生はいつになくサクサクと歩いて行ってしまい、ぽかん、としているうちにりんご飴を手に持て帰ってきた。
「あ…ありがとうございます」
先生は小さくうなずいた。
「行きましょう」
「はい」
一度前をむいた先生が私の方を振り返った。
「言い忘れました、ちゃんとついてこないとはぐれてしまいます。早く歩きすぎましたか?」
「あ、ごめんなさい、そういうわけじゃなくて…」
「ならあんまり離れないでください」
(……え!?)
先生の手が私の手をつかんでいた。
先生は前を向いてしまって顔は見えないし、相変わらず沈黙だけど、私の気持ちはもう暗くなかった。
「ありがとうございます、先生」
右手にりんご飴、左手に大好きなひとの手
2009.08.19
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