Short Dream

□試験勉強しましょう
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「学」


顔を上げると向かいの椅子に彼女がにこにこ笑いながら座っていた。


「…いつの間に」


「今の間に」


試験勉強をしよう、との誘いを受けて、いつもの食堂ではなく、カフェテラスに来ていた。


「いいのか?」


「何が?」


「見られているが」


周りの学生たちはこちらを見てコソコソと話している。

今まで僕たちの仲を隠したがったのはそっちだ。


「うん。もうコソコソするのはやめようと思って。

だってもうばれてるし、コソコソしてても嫌われてるものは嫌われてるんだもの。だったら堂々とした方がいいわ」



彼女は僕と付き合っている、という理由だけで嫌がらせを受けたり陰口をたたかれている。

よって、彼女が嫌われているのは僕のせいだ。

開き直ってしまった彼女に、逆に自分が申し訳ない気分になる。


「…どうしたの?勉強しないの?」


彼女は飄々と言う。机には参考書を並べて、勉強を始めようというところだ。

一方の僕はその彼女の事を考えていたせいで何もしていなかった。


「…手につかない」


いざ開き直られると、周りから彼女に注がれる視線に自分の方が気になる。


「珍しいね、学が手につかないなんて」


「どうすれば君が周りの学生からいじめられないか考えることとしよう」


「やだ、やめてよ」


「何故」


「今は試験勉強するんでしょ?ねえ」


「…」


「学は勉強しなくても大丈夫かもしれないけど、私はそうはいかないの。

ほっとけばいいんだよ。そのうちおさまる。私、気にしてないから」


「そんなわけないだろう」


「…気にしてない。だから勉強しよ…あ、学、この問題教えて」


何事もなかったように彼女は言った。


「その数式を積分すればいい」


「そっか、ありがと」


「…ひとつ、」


「え?」


「ひとつ、考えついた。付け入る隙を無くせばいいのだ」


「は?まだかんがえ、…っんん!」


彼女の唇に自分のそれを重ねる。

周りで懲りずに睨んでいた彼女の敵たちがあっ、と息をのんだ。

どれくらい時が経ったか、苦しげに僕の腕を押してきたので離れると、真っ赤な顔で僕を睨みつけた。


「馬鹿ッ!!逆効果!!」


そしてぐったり参考書に顔を伏せる。


「恥ずかし過ぎてもう外歩けない…」


「なら好都合だ」




試験勉強してください


(君を独占出来るじゃないか)

(もう学と試験勉強しない)



2009.7.15


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