Short Dream
□雨降りの日に
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「私、昔から雨にはいい思い出ないんですよね」
事件の捜査を終えた帰り道、傘を打つ雨の音にまぎれて俺の相棒が言った。
「え?雨?」
「本命の大学落ちた時とか、彼とけんかした時とか、よくないことが起こるときは決まって雨が降ってるんです。
それで今回は、彼に振られたんです
他に好きな人がいるから、捜査ばっかりのお前なんか要らない、って本当に身勝手」
捜査をしているときの気の強さはどこへやら、眉を歪めて泣きそうな顔になっている。
「泣いていいんだぞ、胸なら貸してやるから」
俺がそう言うと、彼女は少し微笑んだ。
「気持ちはすごくうれしいです。
…でも、駄目ですよ。草薙さんには彼女さんがいらっしゃるでしょう?
彼女を大切にしてあげないと」
「…ああ、…うん。
まあ、そんな最低な男より、お前のこと大事にしてくれるやつがいるよ」
相当傷ついているはずなのにそれでも他の人間を気遣う彼女に、俺はなんと声をかけていいのか分からなくなり、ぎこちなく言った。
「そうですよね。草薙さんみたいな方もいるんですもんね」
そう呟くと、大粒の涙がこぼれた。
「…やだな、あんなやつもう好きじゃない、って思ってるのに…馬鹿みたい…」
涙を拭う手の甲を新たな涙が濡らしていく。
傘で顔を隠すこともできただろうに、それでも彼女は俺に向かって気丈に笑って見せた。
「…草薙さん」
「何?」
「やっぱり、泣いてもいいですか」
「もちろん」
彼女の手から傘が離れ、ふわりと宙を舞って少し離れた場所に落ちた。
そっと抱き寄せると遠慮がちに体を預けてくる。
「雨なんて、大嫌い」
そう呟いた彼女はようやく声を上げて泣いた。
不幸の雨と強い君と
(どうか、どうか、)
(お願いします)
(彼女の雨に幸運を)
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