Short Dream

□6月の花嫁
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俺の隣に並ぶ花嫁。

ウェディングドレスに身を包んだ彼女は俺のお嫁さんになるひと。


「今なら戻れるけど」


気づいたらそう口にしていた。


「どうして?」


彼女も小声で返した。

出席者からすれば、微笑ましい新婚夫婦のひそひそ話に見えるのだろうか。


「そりゃあ、」


俺のような危険な職業のやつのお嫁さんなんか、きっと苦労が多い。

それにこれだけ年の差があれば、俺の方が長生きともいかないだろうし。

なにかあったとき苦しむのは俺じゃなく、彼女だ。


「俊平さん」


彼女は俺に左手を差し出した。ああ、そうか、指輪の交換か。


「私、今、幸せですよ」


やわらかく彼女は微笑んだ。


「…そっか」


リングはすっとお互いの指にはまり、当たり前のように唇は重なった。


唇が離れてから、彼女がそっと俺に耳打ちした。





今が幸せなら、いいか

(それにしても)

(婚姻届出しといて)

(よくも戻れるなんて言いましたね)




2009.6.29



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