作品展示場
□短文
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きみのはじまり
タタンカ、と後ろからやんわりと抱きしめながら囁いたドナルドの声は、
タタンカの耳へと何の躊躇いもなく入り込んで、内側の神経を一つ残らず逆撫でていく。
そのままぞわぞわと鳥肌を外側に連れながら喉へ降り、空気を取り入れる管から心臓の辺りの血液を煮立たせ肺を圧迫し
じわじわと下半身に染み入るかのようにタタンカの身体中を巡っていった。
どこもかしこもじんじんじんじんと甘く痺れて、まるで耳から犯されるような錯覚に陥る。
思わず耳を押さえたが、それがこれ以上ドナルドの声が聞こえないようにしてるのか、先程の声がこの身体から逃げないようにしているのかわからない。
押さえた手の甲にキスをされて、指の力が抜けていくのを止められなかった。
たった一言、名前を呼ばれただけなのにそれだけで体に力が入らない。
ぴったりと合わさっていた筈の指の隙間をそっと開くように、ドナルドの分厚い舌が這う。
外耳に舌が当たると、タタンカの思考はもう耳に当たる感覚にすべて持っていかれてしまった。
浅い呼吸の音、少し湿りながら指を伝う舌の感触、耳の周りに当たる柔らかい鼻先の冷たさ。
ごくり、といつのまにか溜まっていた唾を飲み干すと、手の甲に当たる唇が確かな水音を伴って動くのを感じた。
「…タタンカ」
耳に直接吹き込まれる劇薬だ。
この一言で呼吸が止まる。
息が、心臓が、血液が、もうだめだ!と悲鳴をあげる。
「愛している、タタンカ…」
畳み掛けるような痺れに耐えられなくなり、タタンカは自分をやんわりと抱き締めていた手を振りほどいて
その気持ちの勢いに乗せて振り返り、ドナルドの肩口に顔を埋めた。
背筋を丸める体勢は辛いが、体重なんてものは目の前の男に預けてしまえばいい。
どうしようもなく熱くなり治まらない顔を、ドナルドの首筋に擦り寄せて抱きついた。膝がガクガクと震えている。
ドナルドはと言うと、いきなりのタタンカの包容にものともせずに、寄せられた艶やかな黒髪に優しくキスをした。
その平然とした態度を不満としたタタンカは、つぶやくように言葉を紡ぐ。
「…君がこの胸の高鳴りの半分でも、味わえばいいのに…」
「何を言う、これでも平静を保つのに必死なのだ」
「どの口が言うんだ、そんな嘘を」
「…塞いでみるか?タタンカ…」
囁かれたら、逆らえない。
痺れは何処からだって広がってきて正確な思考を奪っていき、いつしか目の前の君の事しか考えられなくしてしまうのだから。
内側から外側から
君が、広がる。
了
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ドンの声に皆痺れるといいと思います。