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□王城脇役ネタ
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アナタへ走る





何かが足りない、と薬丸は思った。

厳しい練習量もいつもと変わらず、日の落ちる時間も季節の移り変りと共に早くはなったがさして気なる事ではない。
肩で息をして、1日のノルマが終わった事に安堵する。
いつものように何かを探して口を開こうと顔を上げて、足りない何かに気付いた。
その途端、指先からじわじわと冷えていく。
居ても立ってもいられなくて、薬丸は部室へと一目散に駆けた。
汚れた練習着を手荒に脱ぎ捨てて、防具ももどかしく剥ぎ取る。皮膚を挟んだらしいがそんな事を気にしている暇は無かった。
練習着をすべて脱ぎ捨て、下着から何から手早く着替える。
シャワーから上がってきた桜庭がぎょっとした顔でこちらを見ていたが、
それを無視して「お疲れさまでした!」と部室を飛び出すと、勢い走りだしていた。

練習で疲れている体を無理矢理奮い立たせて全力で走った。

王城高校から最寄り駅まで全力疾走して10分、そこから2駅間が6分。
飛び乗った電車の中で荒く息をしていると、周りがこちらを向いているのに気付いて慌てて息を整えて平静を装う。
考え無しに普段は帰宅に使わない電車に乗り込んで、もはや頭の中いっぱいに広がる考えが増幅されていくのを止められなかった。

目的の駅に着いて、ようやっと携帯を取り出してリダイアル機能を開く。
一面にずらりと並んだ名前も見慣れたものの筈なのに、今はその文字にすら胸が苦しい。
通話ボタンを連打する。呼び出し音に泣きそうだった。
プッと呼び出し音が切れたので、電波が繋がったのだろう。はやく何か喋ればいいのにとはやる気持ちを、薬丸は抑えられなかった。

「『もしもし?真後ろだけど』」

耳に当てた携帯と、空いた耳から同時に声が聞こえた。
勢いで振り向くと、見知った顔が笑いを堪えて立っている。

「気付かないんだもんなぁ、薬丸。電車で車両まで一緒だったのに」

そう言いながら携帯を閉じた艶島は、そのままの笑顔で「どうした?」と薬丸に問い掛ける。
まだ耳でツー、ツーと鳴る音を信じられないと思いながら、薬丸は何度か目をぱちぱちとさせた。

「センパイ…!」

自分でもびっくりするような情けない声が出て、思わず艶島も太い眉をぎょっとさせて慌てだす。

「ど、どうした薬丸?!とりあえず家に来い、な?」

その誘いに素直に頷いた薬丸の手を引いて、艶島は帰路を辿った。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

玄関に入ってすぐ人の気配が無い事を察知すると、薬丸は無遠慮に艶島に抱きついた。
艶島はある程度予想はついていたのか、足を踏張って寄り掛かる薬丸を抱き留める。

「薬丸…どうしたんだ?今朝はどうも無かったのに」

甘えて頭をすり付けてくる薬丸を優しく撫でて、艶島は疑問を投げ掛ける。
薬丸が電車でこちらまで来る用事なんて、それこそ自分に会いに来る以外ない。
だが今日は別段約束もしていなかったし、何故あんなに急いでいたのかも艶島には分からないでいた。
ぎゅっと薬丸を抱く腕に力をこめると、薬丸から濃い汗の匂いがする。
走って電車に乗り込んだだけにしては余りに湿ったそれに、少しだけ顔をしかめてしまう。

「薬丸…汗臭い。部活後のシャワーは?」

「…アンタに逢いたかったんだ。1分、1秒も惜しいくらい」

ぎゅう、と力を込めて、薬丸が艶島の腰を抱く。
さらに密着した体の隙間を埋めるような薬丸の動きと言葉の意味に、艶島の体温が、みるみるうちに上がっていく。

「あ、朝も会っただろ…昼休みも」

今日の記憶を丁寧に思い出していく。
お昼は一緒に弁当だって食べたというのに、薬丸は何を言いだすのだろうか。

「…部活に、アンタが居ない…」

さらにギュウッと力を強めて腰を抱く薬丸の耳が少し赤い。

3年はもう大会が終わってしまって部活動に参加する義務は無い。
大体はそれでも部活に顔を出して後輩を指導する者、もしくは進学の為に勉強をする者に分かれるのだが、艶島は後者だった。
エスカレーター式の王城ではあるが、やはり希望学科へ進むにはそれなりの学力が要る。
そう決めて、部活に顔を出すのを止めたのだ。


今日から。


「…初日でこんなでどうするんだ?」

「俺だってこんな予定じゃなかったよ!」

肩に預けていた頭をがばっと上げて、薬丸は艶島と向き合った。
ちょっと困った顔をした艶島に、ごく自然にキスをする。
何かを思い詰めたような、触れるだけのキスだった。
すぐに離れて、薬丸がまた俯く。

「…でもどうしても…耐えられなかったんだ…」

また肩口に真っ赤になった顔を埋めてしまった薬丸は、今度こそ固く艶島にしがみついて動こうとしなかった。
艶島は薬丸がそれ程までに自分を好きなのだと面と向かって言われたのだと気付いて、顔を赤くしたまま動けなくなってしまう。

しばらくそうしていると、艶島の家の柱時計が時刻を告げた。
8時半だろう鐘の音は2人を動かすには十分で、どちらともなく抱き合っていた腕の力を緩める。

「…俺、帰ります」

薬丸がぽつりと呟いて、後ろを向いてドアノブに手をかける。
それに気付いた艶島は、咄嗟に薬丸の肩を掴んでいた。
振り向こうとする薬丸を阻止するように、艶島は体を屈めて目の前の肩に額を置く。

「センパイ…?」

「お前が呼ぶなら、どこへでも行くから…」

照れを隠すように顔を薬丸の肩に擦って、艶島は今度こそ体を離して薬丸の持ったドアノブを回す。
外の空気が一気に室内に流れ込んで、随分と熱気が籠もっていた事に気が付いた。

「さ、薬丸。早く帰らないと」

「ウザイ。保護者面しないで下さい」

顔を艶島の方へ向けた薬丸ははっきりとそう言うと、ドアを開けている艶島の手を掴んでそっと閉めさせた。

「帰れるわけ無いでしょう…こんな…」

「薬丸?」


やっと離れたはずの体を、薬丸はぐいっと引き寄せてまたキスをした。
今度は触れるだけでは無く、もっと、理性を揺るがすような深いそれに、艶島はなされるがままに目蓋を閉じる。
薬丸の唇の柔らかさも舌のぬるつきも引き寄せる手も、全てがいとおしくて仕方がない。
艶島は、このたまにしか本音を素直に出さない恋人の気が済むまで付き合ってやるかと、擦り切れていく理性の隅で少しだけ思うのだった。








相手が恋しくて気持ちが走るのは、何も君1人だけじゃあないんだから!







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何が書きたかったのか見失ったいい例すぎてすみません…
とりあえず薬丸と艶島さんは出来ているよ!←






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