今も君の声を思い出す。




『どうして・・・』



そう言う君に俺は・・・手を差し伸べることさえ出来なかった。







ビードロの鏡










『私、銀ちゃんが好き。』


『あぁ。俺もだ。神楽。』






あの日、そう言ったお前を受け入れたことを俺は後悔していない。



でも、何故かな。


心が無性に・・・焦るんだ。


俺とお前の未来は、濃い霧が掛かっていて・・・何も見えない。







「銀ちゃん!!おはよう!」


「おぉ、神楽。おはよう。朝から元気だな。」


「うん!!当たり前だよ!」






元気に俺に話し掛けてくるのは、自分の教え子の神楽。


いつも無邪気で明るい、俺の彼女。


3ヶ月前に神楽が俺に告白をしてきた。


教師が教え子と付き合うなんて最大のタブーだが、あいにく俺にそんな余裕は無かった。





初めて見たときから、俺は、ずっと神楽が欲しかった。


それから神楽を見かける度に、自分の中の男が話しかけてくる。




何を、そんなに恐れている?


欲しいなら奪い取ってしまえ。


あの子の全てを。




理性が本能に勝てるのは・・・いったい、いつまでなのだろう。


俺は神楽と付き合うまで、毎日ように思っていた。


だから、神楽が俺に告白してきてくれたときに思ったんだ。



全てを奪ってしまおう。



この手で、神楽の全てを。



俺の心は、そう言っていた。



無垢な神楽を騙して、その柔らかい唇を奪って、それから・・・。



柔らかい肌に触れて・・・神楽の全てを俺で縛ろう。



狂気に満ちた俺の心が黒に染まる。











だけど、どうしても。


どうしても、君に触れることが出来ない自分がいるんだ。


心では全てを奪いたいと思っているのに、気持ちとは正反対に俺の体は動かない。




君を抱きしめることすら・・・できないでいる。




俺の本当の姿を見せたら、君が離れていく思ったら・・・体が動かなくなっていた。


あんなに奪ってしまおうと思っていた神楽なのに。


いざ、目の前にすると怖気づいて、君に触れられない。



俺は・・・神楽への愛と自分の本能の間で揺れている。





俺は、本当の自分を見せるのが・・・怖かった。








だから、あの時。

もう、君が離れていってしまうとわかったんだ。




「ねぇ、銀ちゃん。どうして・・・私に触れてくれないの。」


「・・・えっ?」


「私たち付き合って半年も経つのに。銀ちゃんは好きって言ってくれないし、私に指一本触れてくれない。」


「神楽・・・。」


「銀ちゃんは、私のこと本当に好き?」









俺は黙って頷いた。



目の前で必死に俺に聞いている神楽に・・・触れたい。




でも、触れたら。

君を、めちゃくちゃに壊してしまうそうで・・・君の全てを奪ってしまいそうで。


俺は、伸ばしかけた腕を戻す。



「・・・やっぱり。銀ちゃんは私のこと本当に好きじゃないんだよ。」


神楽は泣きながら、俺の前から消えていった。



どんどん、小さくなる神楽の背中を、俺はただ見つめることしか出来なかった。






好きだ。大好きだ。狂おしいほど愛してる。




「神楽、好きだ。心の底から・・・愛してるよ。」






遠く離れていく神楽に、俺は呟いた。






ここで言ったって意味ないのに。


あいつに聞こえなきゃ、この言葉に価値なんて存在しないのに。





涙で揺れる景色を前に、力なく地面に膝を付いた。







言いたくて



伝えたかった気持ち







俺が初めて口にした彼女への愛は・・・





秋風に流れて遠くに消えた。









包んだ思い

終わり





悠月


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