B文

泡沫のような、
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「太子っ!この書類に落書きしたのあんただろコラァ!なんだこのケツ妹――」



乱暴に生徒会室のドアを開けた僕は思いがけず吹き抜けた爽やかな涼風に驚いた。
うっかり手を離してしまって大切な書類が宙を舞う。

「うわ、っとと」

なんとかそれを捕まえることに成功はしたが、よくよく辺りを見回すとそこら中に紙たちが散らばっているではないか。


「・・・・・・・・・このオッサン」

部屋をこんなにした犯人はすぐに見つかった。

この教室の窓をすべて全開にして、その人は眠っていた。窓の外いっぱいに見える青空が無駄に爽やかな空間を演出しているのがなんとも腹立たしい。
近づいて汚いオッサンの寝顔を見下ろす。最悪だよ仕事しろこの肩書き泥棒が!しかも床でだ。なんでだよ机にでも突っ伏しゃいいじゃん。つーか待て、その枕にしてる書類大事なやつじゃねぇか。オッサンの髪の油とかついたらどうしてくれる。
蹴り起こしてやろうか、と思った。

「・・・起きて下さいよ、太子」

一応声をかけてみる。ぐがぁと意味不明な怪音しか返ってこない。意外に長い睫毛もただ呼吸に合わせて上下するだけだ。
よく見ると意外に整った顔をしているのが癪だった。
・・・頬がややこけ気味なのが気になるな。よくよく体を見てみると、ずいぶんと細い。お腹のあたりで組まれている指も骨っぽくて・・・柄にもなくこの人が心配になる。食うもん食ってんのか?手首も、これなら僕のそう大きくない手でも回りきってしまうんじゃないか。

試してみたくなった。
触れたら、起きるだろうか。

僕は、手をのばしてその骨張った手首を―――









つかめなかった。


僕の手は太子の手首の5センチほど前で動きを止めていた。

というか、僕、あれ、なにやってんだろ。

何だかいたたまれなくて僕はそこから一歩下がり二歩下がり、さらにさらに下がって開いていた窓に後頭部を強打した。


あっぶね!なんか今色々とあぶなかった気がする・・・・・・何考えてんだか僕の馬鹿が!
こんな奴の手なんか触ったら大変まずい何かが移る気がするわ!!



「・・・・・・・・・・・・はぁ」

なんか、力抜けるな。

仕方なく僕はその場に腰を下ろした。太子はひたすら邪気のない顔で寝ている。・・・いい夢見てんのかな。
まったく・・・子供みたいな寝顔しやがって顔面年齢中年のくせに。

目を閉じると風が気持ちいい。なるほど、確かにこりゃ眠くなるか。
次第に瞼が重くなっていくのがわかる。僕は太子の寝息を聞きながらそっと眼を閉じた。




結局そのまま爆睡してしまった僕は見回りに来た事務員さんに起こされ、いつものように太子と罵りあったのだった。








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