B文
□ツンドラの春
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季節は春。
春は出会いの季節。
そして学校の部活動においては、新入生相手の部員勧誘に新2、3年生が躍起になる季節だ。
日和学園高等部の文芸部においてもそれは変わらない、はずなんだけど。
「曽良くーん!顧問の芭蕉先生だよー!さて今日は部活見学初日だけども一体何人くらい来てくれたのかナスビっ!!」
「テンションの高さが欝陶しいです。殴りますよ」
「もう殴ってるじゃない・・・」
はあ、と何を考えているかわからない無表情でため息をつくのは文芸部で唯一まともに活動している新2年の河合曽良くん。
彼との付き合いは高校入るずっと前からだからもう長いけど、未だに何を考えているのかさっぱりだ。
「じ、じゃあ普通に聞くけど、今日見学者は何人くらいきたのかな?」
「0です」
「え?」
「入ろうとしてきた人もいましたが、追い返しました」
数秒、曽良くんの言っていることの意味がわからず無言で見つめあう。
曽良くんは黙ってこちらを見つめたまま、それ以上言葉を発しない。
「え、えぇええ?!ゴフゥッ」
思わず大声をあげてしまった私に再び曽良くんの拳がとぶ。
・・・手加減を知らなすぎだよ、曽良くんは。
「うるさいジジィですね」
「な!ジジィじゃないよ松尾まだピッチピチ、じゃなくて!」
はあ、とため息をつく。
この子はたまにこういう突拍子もないことをするのだ。・・・最近は少なくなったと思ったんだけど。
とにかく理由もなしにそんなことをする子ではないから、落ち着いて話を聞かないと。
曽良くんは私から目をそらさない。
私もしっかり目を見て応える。
「なんで、そんなことしたの?」
「・・・わからないんですか、このバカジジィが」
「バ・・・うん。わからない。だから教えてほしいんだ。曽良くんのことわからないの、悲しいから」
軽く曽良くんの目が軽く見開かれる。
「・・・バカジジィが」
「うん。ごめんね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・謝る必要は、ありませんよ」
僕も大人げないことしましたから、とはじめて目を反らしながら彼は言った。
やっぱり曽良くんは本当はいい子だと思う。
「なんでその大人げないことをしたのさ?」
「・・・もうしません」
「え?うん、いやだからなんで」
「さてもう下校時間なので帰ります。芭蕉さん、さようなら」
「えぇ?!ちょ、曽良くぼかぁっ!!」
勢い余って曽良くんの閉めたドアに激突した。
痛い・・・ひどいよ曽良くん!
「結局理由、話してくれなかったなあ」
まあもうしないって言ったからいいけど。
「やっぱり曽良くんは難しいなあ」
まったくあのボケジジィときたら。
廊下を早足で歩きながら、先程のことを思い返す。
勢い良くドアに衝突したようだが・・・自業自得だ。
いい年こいて天然で無邪気でダメ男で。
その癖たまに大人なんだと思い知らされる。
本当に腹の立つ人だ。
『曽良くんのことわからないの、悲しいから』
素でなんてこと言うんだあのジジィは。
ならとっとと気付いてくださいよ。
見学者を帰した理由なんて。
熱心な部員が入ったらあんたとふたりっきりの時間が減ってしまうなんてからですなんて、言えるわけがない。
気付かないあんたが悪いんだ。
「・・・僕もガキだな」
短いため息がひとつ、放課後の淋しげな廊下の空気に溶けた。
とりあえず今日は芭蕉さんの家に寄って何か嫌がらせでもしてやろう。
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