文2

被関白宣言
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握った手は温かくて舐めたわけでもないのに甘いと思った。

ああ、目眩がする。

「メイコさん」

ぎしりとソファが軋む。
ただ手を握って見つめ合うだけなのに動悸がすごいことになっている。これ、冗談抜きで死ぬんじゃないかしら。

「わ、わた私っ、あなたより早く寝ません。・・・あなたより遅く起きもしません。ご飯はおいしくつくるしいつも綺麗でいます。人の陰口は言わないし聞きません。嫉妬は・・・・・・な、なるべくしないようにします」

リン姉様に教わったこういうときに口にすべき言葉を気持ちを込めに込めて告げる。夕べたくさん練習したから、上手く言えたと思う。大丈夫、ちょっとしか噛まずに言えた。震えてしまったけどそれくらいは大目に見てほしい。


だって、


これはこの巡音ルカの一世一代の、プロポーズなのだから。


「はあ」

メイコさんはただ私を感情の読めない瞳で見つめる。

「だから、わわ私と、私と・・・」

言わなきゃ、ちゃんと言わなきゃとせき立てる自分の頭とは裏腹に、あらおかしいわね肝心の内容が出てこない。

「・・・・・・・・・私、と」

「うん」

「わたっ、あの・・・あの、私と、」

「うん」

「・・・・・・・・・あの・・・ここまで言えば・・・わかるでしょう」

「わかるけど、」

にこりとそのいじわる唇が綺麗な弧を描く。

「わかんない。だから教えてよ、ルカ」

「・・・・・・っ」

頭が沸騰しそうだ。

いや、もうきっと手遅れなのだ。
だってこの人の声ひとつでもうほら、目から雫がぱたりと落ちる。
これは、脳だ。私の脳はもうどろどろに溶けてきているに違いない。


「聞かせて」



響くあなたの声。
ねえメイコさん、私あなたの声を聞く度に私に耳がついてることを幸せに思えるんです。

あなたの姿が見れるから目がついててよかったし、あなたに触れられるから私の存在を幸せに感じるんです。

私の幸せは、あなたなんです。

だから、どうかその幸せをずっと私にください。


「メイコさん。・・・私と、結婚してください」


不意に引き寄せられた私は、もう原型なんてわからないくらいにぐずぐずの肉塊になってしまうのだろう。
それでいい。





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