文2
□心理的遠距離恋愛
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例えば、何処までも続く海原にあたしが立っていたとして。
海と晴天の空の下、見渡す限りの蒼い、青い、碧い世界の先に一点の緑がある。
それが、ミク姉だ。
(点、なんだよなあ)
人の形にすら見えやしない。うっかりするとただの染みのような。
要は、それだけ遠いってこと。
本人は目の前にいる。
だけどこの距離感はおそらく埋まることはない。
彼女が歌姫である限り。
あたしがVOCALIDである限り。
それはつまり、あたしたちの存在故にこの距離が存在するということで。
(淋しい)
だからそんなことを思うのは、あたしの都合の良すぎる我が儘。
だってあの一点の緑に手が届くとしたら、それは彼女が歌姫でなくなるということ。
或いはあたしが、VOCALIDでなくなるということ。
(嫌だ)
そう、それは嫌だ。
そんなに欲しいのか。
歌を捨ててまで、存在を否定してまであの人を手に入れたいのか。
(・・・それは、わからない)
矛盾。
もし彼女が歌を捨てて、あたしも歌を捨てて、ふたりで存在を棄てて、その先で一緒にいられたら?
そう考えた時にあたしの胸が疼くのは、事実。
同時に覚える、吐き気を伴う強い嫌悪と恐怖、その拒否反応も、事実。
きっと目が眩むほどの幸せと気が狂うほどの絶望が同居するその未来は、何れにしろ猛毒の禁忌であることに変わりはないけれど。
けれど、だけど。
その逆接の、そのあとにあたしはやはり望むのだろう。
遠い遠い、ただ一点の緑色を願い続けるのだろう。
(欲しい)
赤も、青も、桃も、あたしの片割れの黄色さえも犠牲にして。
それで、もし緑が抜け殻になったとしても。
その抜け殻と共にどこまでも逃げてしまいたいと。
どこまでも、どこまでも。
(馬鹿だなあ)
本当に欲しいのは、何。
緑の抜け殻、緑の肉体、緑の心。
そのすべて。
(だとしたら、あたしは)
あたしは、どうすればいいの?
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