文1
□笑う女
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※悪ノPの「悪食娘コンチータ」と「円尾坂の仕立屋」のふたりが出会っているという超設定です。
うえ、と思った方は閲覧をご注意下さいませ。
カプは一応コンチータ×仕立屋で。
曲の雰囲気やイメージを壊したくない人は閲覧をおやめください。
あくまで管理人のぼやっとしたイメージで書いてますので。
「貴女、面白いわね」
そう言った外の国から来たというお方は、私の顔を見るなり、ぞっとするくらいに美しいお顔で微笑んだ。異様なほどに真っ赤な「どれす」というお着物がその表情によく似合う。
「はて。何かおかしなものでも私の顔についてますか」
彼女は目を猫のように細めてまたひとしきり笑うと、ずいと私に寄って囁いた。
「ひとごろしの目がついているわ」
ひどくしなやかな指が私の頬をなぞる。
ごとり、と箪笥の奥にしまってある裁縫鋏が鳴った気がした。
「何をおっしゃいます」
「何を言ってると思う?」
ひどく愉しげなその瞳は驚く程真っ直ぐに私の目を捉えてはなさない。
「瞳は偽れないわ。一体どれくらいころしたらそんな眼になるのかしら」
なぶるような口調と濁ったような瞳が私を覆う。
その瞳は、どこかで見たような輝きを放っていた。
そう、例えば今朝の身仕度の際。お化粧をする、鏡の中で。
「・・・貴女も同じ瞳をしておりますわ」
数瞬の間の先にはまた笑顔。くすくすと本当に可笑しそうに笑う。
「ええ、ええそうよ。私達、おんなじね」
よく笑う人だ。
私はそれをひどく訝し気に見つめていた。
一人ころし二人ころし、愛する人をころした時ほどからだっただろうか。私は笑いたくなるという衝動を感じなくなっていた。
同じなのに違う。私とこのひと。
猫のように笑うひと。
「貴女は人が好きなのですか」
気がつくとそんな言葉が零れていた。
口に出すとすとんと胸の奥に落ちたそれは、もしかしたらずって私の咽につかえていたものだったのかもしれない。
「ええ大好きよ。・・・食べちゃいたいくらいに」
予想通りその人はまた笑いがらそう答えた。
「貴女は人が嫌いなのね」
「ええ。人は裏切りますもの」
私は貴女とは違う。
おんなじなのに、違う。それはひどく素敵なことのように思われた。
ふとよみがえったのは愛した人達のことと人を断ったあの瞬間の鋏越しの感触。人は嫌いだけれど、あれだけは少しだけ好きだ。この人とおんなじように、好きだ。
私は久々に笑いたくなった。
「・・・世界の端の国の珍味を探しに来たけれど、思わぬ見つけ物だわ」
つ、と女人が私の髪を撫でる。
反射的に見上げた先の極上の笑顔に、魅せられる。
「ねぇ、貴女はどんな味がするのかしら」
言の葉を生み出す源からちらちらのぞく朱い舌がひどく官能的で肌が粟立つ。
―――欲しい。
「私も貴女を仕立ててみとうございます」
私は笑った。
目の奥ではただ目の前で笑うこの人の血肉を吸った鋏の輝きをひたすらに夢想していた。
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