文1

暮れる日を貴女と
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「メイコさんはいこれ、メイコさんの手袋とコートとマフラーと耳あてです」

いきなり廊下に呼び出され、さも当たり前のように差し出されたそれらの防寒グッズにあたしは首をかしげた。

「え、何でこれ?ていうか勝手に部屋に入ってクローゼットを漁るなって何度言ったらわかんのあんた」

「まあまあまあメイコさん。それはとりあえず置といてですね」

「・・・なに」

置いとけないわよ、とここで言わずに話を聞いてしまう自分が少し不甲斐なかった。
ルカがなんかうきうきしてて遮るのが少し可哀相だとか思うからこの変態が付け上がるというのに。まったくあたしは甘いというか、ルカに弱い。

「初詣に行きましょう」

行きませんか、ではなく行きましょうなあたりもう断ったらいけないんだろう。

「寒いんだけど」

自慢じゃないがあたしは暑いのは結構平気だが寒いのには滅法弱い。
ちなみにルカは真逆で雪の降る中ノースリーブの仕事衣装で外に出ても平気そうな顔をしていた化け物である。

「ええ。ですからこれです。暖かくして行きましょう」

得意げにルカは言った。
なんか散歩に行きたくてリードを持ってくるわんこみたいで可愛い。

「みんなで?」

「ふたりっきりがいいです!」

「そうよね」

んー、でもねえ。
時計を見る。現在12月31日午後11時。
年は家族全員で越したいんだけど。

「ちなみにグミはマスターと部屋で年を明かすそうです。男共は仕事です。最初から家族全員がそろうのは無理ですよ」

「連帯感0なのうちの連中は・・・」

大晦日は仕事とるなって言ったのに・・・。
去年は皆であけましておめでとう言ったのに・・・!

「ね、メイコさん今年はせっかくこの通りの状況なんですから流れにのってふたりで初詣行きましょう。来年は皆で過ごせばいいじゃないですか・・・それに」

ルカはあたしの耳元に口を寄せて囁いた。

「人生初の年越しはメイコさんとじゃなきゃ嫌です」

「・・・・・・わかったわよ」


恋人にそこまで言われたら断れるわけなんてない。

「あんたはあたしの扱いが上手いわね」

手玉に取られてる気さえする。

「こちらの台詞ですよ」

サラっと流された・・・まあいいけど。

「じゃ、ちょっと待ってて」

「?どうしてです」

「外で飲むスープでも作ってくる。すぐだから」

「居酒屋でも入ればいいじゃないですか」

「いや。今年最後にあんたの胃袋に入るのはあたしの手料理じゃないとだめ。待て」

わんこにするように手を前に出して待ての合図をした後、あたしは台所へ向かった。
どうせふたりっきりになるなら思いっきり甘い時間にしてやろう。具の野菜は出来るだけハート形にしようと決意した。
短時間でどこまでできるかが今年最後の腕の振るい所だ。

「よしって言うまであんたはあたしのコートでもあっためときなさい」

むろん人肌でね、と付け加えると廊下からは

「・・・・・・わん!」

というルカの嬉しそうな声が聞こえてきた。

あたしのやる気が大幅にアップしたのは言うまでもない。


おいしいスープを飲ませてあげよう。
外でこれを差し出す時に言う言葉ももう決めている。
『今年あんたに会えて幸せだったわよ。来年もよろしくね』


さて、あいつはどんな顔をするだろう。








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