文1

鈍感の宣戦布告
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巡音ルカ。

いつも無口で何があっても表情を変えなくて、そのくせえらく感情豊かに歌を歌う彼女を見て、なぜだか私は妙なことを考えてしまった。


・・・いきなり抱きしめてみたら、どんな顔をするだろう。



質の悪い悪戯だ。
自分でもそれは重々承知していたし、思い付いた時は、いや実行してしまった今もこんなことをするつもりなど無かったはずなのだ。
しかしまあ、事実腕の中で身じろぎ一つしない桃色の感触を私はこうも感じてしまっている。それなのにごめんする気はなかったの、なんて矛盾していることを相手に言えるわけはなく。
要するに今私は、大人気なくやってしまった悪戯の後始末をどうしようかと途方にくれているのだ。


「・・・えっと、ルカ?」

俯いていて表情は見えないがびくりと彼女の体がはねたのを感じた。・・・そうよね、いきなりこんなことされたらそりゃそうなるわね。悪いことをしてしまったと思う。

「あの、あー・・・・・・ええと、嫌?よね、当たり前に嫌よね」

謝ってしまえばいい。一言、ごめんと。冗談めかしてびっくりした?なんて聞いてみたりしてしまえばいいのだ。そうすればいい、のに。
なんで私は謝りたくないだなんて思ってしまっているのか。

「・・・・・・嫌、ではありませんが」

やっとルカが口を開いた。
え。
嫌じゃない・・・の?

「ただ・・・その、メイコの意図をはかりかねます」

言葉を紡ぐその声は、いつもの平坦なそれではなく、なんだろう、何かを必死に押さえ込むような、探るようなものだった。

あ、可愛い。

なにかルカの顔が無性に見たくなった私は華奢な背中にまわしていた腕をそっとその両頬にそえる。抵抗もなく持ち上げられた顔。

「・・・・・・・・・可愛い」

思わず口に出してしまうくらいに、それはもう。
ほんのり上気した桜色の頬は白い肌によく映えている。恥ずかしげに視線を泳がせて形の良い眉を八の字にして小さな薄い唇がきゅっと結ばれていて、なんか・・・まずいわね。

「メイコ、あの・・・あまり見られると、困ります」

「なんで?」

もっと困って欲しくてわざとそんなことを言ってみる。

「・・・・・・メイコは意地が悪いです」

知りませんでした、と呟くルカ。私もあんたがそんな表情できるなんて知らなかったわ。
今の私、ひどいにやけ顔なんだろうな。

「あっはは、ごめんごめん」

あまりしつこくしても悪いしと私は自分でも驚くほどあっさりと手を離した。
・・・あれ以上やってると、なんかキスしたくなりそうだったし。
私、なんか今日やたら親父臭い思考になってるな。
ルカはまだ熱が冷めないようで、自分の手を頬にあてている。
その仕草もそそるなあとぼんやりと思う。
しかし私はなんでそこまでこの子に・・・・・・、あ?


・・・・・・ああ、そうか。


そこで私ははたと気付く。

私、ルカが好きなのか。


やたらあの子が気になったのも。
困らせたくなってしまったのも。

好きだから。


「ルカ」

「はい?」

「・・・・・・何でもない」


告げるのは、まだ先にしよう。
目の前で首をかしげるあなたがもっと私を好きになってくれるまで。
・・・しかし今気付くとか。もしかして私ちょっと鈍いのかしら。
ま、なんにせよ。


「ねぇルカ、一緒に練習でもしない?」


せいぜい、がんばってみましょうかね。

覚悟してよね、ルカ。





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