文1
□そんな、日常
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「こんにちはー・・・」
藤林涼は古河パンに来ていた。ここの店の一人娘、古河渚が彼女の旧友であるので、彼女はよくここへ通っている。一部のパンを除けば味も良く他の店よりも気安いので涼はここを重宝していた。
「いらっしゃいませ、涼さん」
「あれ、風子ちゃんひとり?」
店で涼を迎えたのは旧友の渚ではなく渚の恋人で、古河家に最早入り婿的扱いを受けている風子だった。
どう見ても中学生にしか見えないような幼い外見だが、もう25だ。
「はい。風子、ひとりで留守番です。渚さんは今ちょっと出ています」
「えらいね」
「はい。風子、もう次は26になりますから。大人です」
風子が胸をはって言うのを涼はほほえましいと思いながら聞いた。
「じゃ、今日私あんパンを・・・」
涼はいつもあんパンが並べてある方の棚へ目をやった・・・・・・が。
「・・・・・・ふ、風子ちゃん」
「はい?」
「あれ・・・・・・・・・何?」
声が震えた。涼が指差した先には・・・何だろう。
とてもグロテスクかつエキセントリックかつダイナミックな感じの・・・言ってしまえばとてもえぐいイラストが描かれた紙が貼ってあったのだ。
「ああ、渚さんが描いた古河パンの宣伝ポスターです」
「せ・・・・・・!?」
絶句した。この岡本〇郎裸足の恐怖すら感じるような絵にどんな宣伝効果があるというのだろう。これでよってくるのは変人かさもなくば変態だ。確かに演劇部時代に見た絵は・・・だったけど!進化している。とても嫌な方向に。涼は戦いた。
古河渚・・・恐ろしい子!
「む、なんですか涼さんその顔は」
「え、あ」
風子は心外だとばかりに顔をしかめ、腕組みをしていいですか涼さん、と諭すような口調で話し始めた。
「確かにそのポスターの絵はえぐいかもしれません。風子、最初に見た時は一瞬気が遠くなりました。が、しかしですね、それくらいで渚さんの魅力は」
「あ」
「なんです、風子、これからすごくいいことを・・・あ」
二人の視線は古河パンの入口に向かう。そこには出掛けていた渚が立っていた。
「な、渚さ・・・」
「風ちゃん・・・私・・・私の絵は・・・」
目に涙が溜まっている。
「あの渚さん、違うんです」
「私のポスターは・・・古河パンのお荷物だったんですねーーーーーっ!!」
渚はくるりと踵を返すと走り出した。彼女の母親を彷彿とさせるほどに、颯爽と。渚ちゃん、元気になったなあと涼は少し感動した。しかし風子はそれ所ではない。
「な、渚さーーーん!!」
と愛する人の名を呼び、壁に貼ってあるポスターを強引に剥がすとそれを抱きしめ、彼女もまた走り出した。
「風子は・・・風子は、そんな渚さんがっ、大好きですーーーーー!!」
そして、店内には涼だけが残される。
「・・・えっと」
とりあえず、店番でもしようか。
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