文1

ずるいやつ
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ふと、思い付いた。
最近受験のための勉強で忙しい魅音をちょっとかってやろうと思ったのだ。
だってせっかく久々にふたりっきりになれたっていうのに恋人をほったらかして勉強に明け暮れる朴念仁にはお仕置きが必要じゃない。・・・来年からは滅多に会えなくなるかもしれないってのに、まったく。
だいたい私だって何も一日中かまえなんて言いたいわけではないのだ。ほんの一時間でも、三十分だっていい。ただふたりで他愛もない会話を楽しみたいだけ。そこまでわがままな願いでもないだろう。

そう。こんなささいな望みも叶えてくれないこの甲斐性なしが悪い。

私はさっそく私の右手前に座り参考書とにらめっこをしている一応恋人に向かって呼び掛けた。


「魅ぃ」

「ん?どしたの梨花ちゃん」

魅ぃは顔は上げずに応えた。

「もし僕たちが、例えば織り姫と彦星みたいに離ればなれになったら、魅ぃはどうしますですか?」

困るだろうと思った。妙に乙女な所がある魅音は真剣にその時のことを想像して涙ぐむかもしれないと、私は想像していた。なのにこいつときたら。

「え?うーん、なんとかして会いにいくよ」

即答だった。
なんとかして・・・?なんかすごく適当にあしらわれたような感じなんだけど。

「魅ぃ、織り姫と彦星がなんで会えないか、知っていますですか?」

「え?うん。いちゃついて仕事さぼってたら怒られて、ものすごい流れの河に阻まれて会えなくなっちゃうんだよね。可哀相に・・・まあ自業自得だけどさ」

まあ、それでも私は会いにいくけどね、と魅音は付け足した。
なんか余裕にあふれる横顔にムカッときた。・・・へたれキングの癖に何をのたまうか。

「魅ぃ、その河には竜とかワニとか巨大イナゴとか、とにかく大きくて恐い生き物がたくさんいるのです」

「あっははーすごい河だねぇ。まあ関係ないよ。ちゃんと会いにいくから」

「・・・他にもその河には毒ヒルや毒虫が五万と生息しているのですよ。にぱー」

「うわっ嫌だねぇ。まあちょっと苦労するだろうけど頑張るよ」

「・・・・・・河幅も裕に二千キロはあるのよ」

「うん。大丈夫大丈夫」

「流れだってちょっと水面に触れただけで手とか砕け散るくらいなのよ」

「平気だってば」

「どうやって渡るのよ?!」

「え?うーんと・・・気合いで」

こいつどこまでも適当こいてくれちゃっていい度胸じゃないの。・・・本当に離れ離れになったらそんなことできないくせに。
いや、例えだし別にいいんだけど!

「大丈夫だよ」

は?と私が魅ぃを見ると、バチっと視線があった。にっこりと笑顔を向けられて、戸惑う。

「仮にあたしが大学受かって遠くに行っても、ちゃんと会いに来るからさ」

「はぁ?!」

「盆と正月は帰るし、大学って夏休み長いらしいし。あ、寂しくなったら遠慮しないで言ってよ。できるだけ会いに」


「な・・・ちょっと待ちなさいよ!」

「へ?」

キョトンとした魅ぃの顔にやけに腹が立つ。なんでこいつは、もう・・・!

「誰が大学の話をしたのよ誰が!」

「あれ違ったの?」

「違うわよ!」

「じゃあなんで急に離れ離れになったらどうする、なんて言ったのさ?」

暇だったのよ!とは言えなかった。構ってほしがってたのがばれるから。

「・・・別に。ただなんとなくなのですよ」


結局私の口から出てきたのは逃げの口実なことが丸わかりな情けないものだった。含み笑いをしながらそっかごめんね?なんて言う魅音に何も言えない。
ああ腹が立つ!

そんなこと言っててもし実際に会いにこなかったら・・・絶対に許さないんだから!








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