文1

最高の片思い
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ある日の休日のことである。戦場ヶ原ひたぎと神原駿河は戦場ヶ原宅で勉強会をしていた。
この勉強会は、週に一度ほどの頻度で行われていて、戦場ヶ原が休日を神原と共に過ごしたいという気持ちから発生した、彼女のツンデレという性格のうちのデレの部分にあたるイベントであった。


「・・・戦場ヶ原先輩」

勉強に一段落ついたらしい神原は、何か神妙な面持ちで向かいに座る戦場ヶ原に言った。

「何かしら」

「唐突な上に無躾で申し訳ないんだが、戦場ヶ原先輩が最も好ましいと思う女性は誰なんだろうか?」

「・・・・・・・・・・・・は」

何を言われたのかよくわからない、というように戦場ヶ原は神原を見遣った。

「ああ、ちなみにもちろん最も親しい同性の友人という意味だ」

神原がフォローのように言葉を付け足したが、そこは別に戦場ヶ原が気にする所ではなかったらしい。ええそれはわかっているのだけれど、と何やら曖昧に言葉を濁した。

「・・・まぁいいわ」

戦場ヶ原は頬杖をついて考える仕草をした。

「そうね・・・・・・・・・内緒、ということにしておくわ」

「えー。なぜだ」

神原はあからさまに落胆し、抗議の声をあげた。

「なんでもよ。それより神原、勉強に集中しなさい」

「だって気になるじゃないか。ちょっとだけ、少しヒントをくれるだけでいいから教えてほしい」

戦場ヶ原の言葉に一も二もなく従う神原が珍しく食い下がる。

「・・・どうしていきなりそんなことを聞くの?」

「え?あ、いや・・・・・・」

「何。いきなり歯切れが悪くなったわね」

何か私に言えないことでもあるのかしらと戦場ヶ原が問い詰めると神原はしぶしぶといった風に口を割った。

「・・・・・・総合トップをとるのが無理なら、せめてジャンル別トップを目指そうかと、思って」

「・・・は?」

意味がわからない、という風に首をかしげる戦場ヶ原に神原は照れたように目線を反らす。

「戦場ヶ原先輩の1番が阿良々木先輩なのはもう変えられないから・・・それなら私は、戦場ヶ原先輩と1番仲良しな女の子になりたいと、思ったのだ」

そう言って神原ははにかんだ。

「・・・・・・ふうん」

戦場ヶ原はそれに対してつとめて冷静を装うことを、失敗した。
不覚にも、両頬の筋肉を緩めてしまったのだ。

「じゃ、ヒントくらいはあげましょうか」

「ほ、本当か?ありがとう戦場ヶ原先輩!勉強させてもらう!」


「喜びすぎよ・・・じゃあそうね、まず髪はショートね。眉は少し太めで、背は私より低いわ。」

神原は瞳を見開いた。
自分のことをまっすぐに見つめながら放たれる言葉。それが誰のことか、察しがそう悪くない神原には、すでにわかりかけていた。

「一つ年下で、足が速くて、掃除が苦手。そして――私のことを、1番好きだと言ってくれてるの」

淡々とすることを強いるような口調で並べられる言葉に、顔にはほのかに赤みがさす。

「後は・・・何かしら」

「せ、戦場ヶ原先輩・・・もういい、ありがとう。わかった」

神原はひろがっていた自分のノートに突っ伏しながら掠れ声で言った。
これ以上聞いていたら嬉しさで死んでしまえそうな気がした。

「あら、そう?」

じゃ、勉強に戻るわよ。

何事もなかったかのように戦場ヶ原はノートにシャープペンシルをはしらせるが、俯いた顔が普段よりも少しだけ赤いことがよくわかる。

そういえば、阿良々木先輩にもこの前大好きだと言われたな。

ふわふわとぶれる頭にはもう教科書の中身など入ってこない。
あちらこちらへ飛ぶ思考は先程の戦場ヶ原との会話や、その人の彼氏でありもう一人の大好きな先輩である阿良々木暦との雑談を行き来している。

――これは全く、まいったな。

「私は・・・とんでもなく幸せ者だ」

幸せを噛み締めるように神原は小さく呟いた。







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