文1
□のろけ話
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「ねぇちょっと玲、聞いてよ」
珍しく疲れ気味の憂いを帯びた表情で紗枝があたしに話はじめたのは『私のはやてちゃんが嫉妬してくれないのよ』なんていう内容の、要するに単なるのろけ話だった。
なんつーか、意外だった。大事に大事に可愛がってるあいつのことなんか、紗枝は一生腹の中にしまい込んで独り占めしてほくそ笑んでそうだと思ってたから。
「ちょっと、聞いてる?玲」
「ん、あー聞いてる聞いてる」
適当に返事をしてさっさと逃げるに限るわ、こういうのは。
「あー・・・はやてちゃん、どうしたら嫉妬してくれるかしら」
「・・・そんなにしてほしいのかよ」
「あたり前でしょー。私なんてはやてちゃんが誰かと話してるだけでお腹の中から沸き上がるの抑えるのもう色々大変だっていうのにあの子ったら」
「マジかよ」
紗枝の後ろにどす黒いなんかが見えた・・・我が刃友ながら寒気がする。あたしはなるべくあいつには近づかないようにしようと心に堅く誓った。
「かと言ってあの子に興味示さない人達見てもなんて見る目ないのよって腹立つし」
逃げ場がねえ!
「どうしろってんだよ!」
「だから困ってるんじゃない」
そうして紗枝はまた切なげにため息を漏らす。
・・・なんだ、深刻だな。
「いっそ縛って監禁でもしようかしら」
サラリと放たれた言葉はあまりにも物騒な響きを持っていた。
つーかこわっ!刃友が犯罪者とか勘弁しろよ!
「物騒にもほどがあるだろ?!」
「やあね、冗談よ」
いやお前はやる。間違いなく。
「本当よ?」
よっぽどあたしは疑いに満ちた顔をしていたらしい、紗枝は少し困り顔で言った。
「・・・私はねー、あの子の笑顔が大大大大だーいすきなの。監禁なんてしたら見れなくなっちゃうでしょ?だからしないわよ」
そして紗枝は、しあわせそうにはにかんだ。
「・・・そうかよ」
どっと疲れたぞ、なんか。
結局はのろけだ。所詮のろけだった。真剣に聞くなんて馬鹿げてた。
「なんか玲、生返事ねー。ちゃんと聞いてる?」
「聞いてるっつの」
あー、うっせー。
・・・まぁ、それなりにうまくやってるみたいだし、こいつ幸せそうだし、いいけどよ、別に。
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