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ある日の放課後、校舎裏に呼び出されて梨花ちゃんに頼みごとをされた。内容は最近微妙な雰囲気の沙都子ちゃんと魅ぃちゃんの仲を取り持ってあげようということ。

「・・・・・・はぁ」

正直、私は・・・嫌、だった。だって沙都子ちゃんは魅ぃちゃんのことが好きで。たぶん、魅ぃちゃんも沙都子ちゃんが好きなのだ。ずっと見てるもの。私にはわかる。
その仲を取り持つってことはつまり、ふたりの恋を応援しろってこと。仲間として、友達としてだったなら喜んで応援するよ?でも、それは。

「無理、だよ」

梨花ちゃんには悪いけど、返事は保留にさせてもらった。かなり意外そうな顔をされたけど、一旦引いてくれてよかった。・・・引いてくれなかったら、この行き場のない感情を私は梨花ちゃんに向けてしまっていたかもしれなかったから。
私は校舎に背中をあずけってその場に座り込む。俯いたまま、顔があげられない。私の頭はこんなに重たかっただろうか。

欲しくて欲しくてたまらないものが、一生手に入らないかもしてないと、気づいてしまったときの絶望感。
私は、魅ぃちゃんのことが・・・ずっとずっと好きだったのに。私のほうが先だったのに。はじめて声をかけてくれたあの時から、想い続けてたのに。
ぐるぐると頭の中を駆け巡る真黒な感情。こんなこと考える自分が嫌だ。
沙都子ちゃんも魅ぃちゃんも大好きなのに、憎たらしくて大っ嫌いになってしまいそうで。
もういっそこの手ですべて終わらせてしまいたいなんて最悪な考えがよぎる。





「あっれ、レナー?ちょっと、大丈夫?具合悪いの?」

「・・・・・・え・・・」


大好きな声に、思わず顔をあげた。
心配そうな顔をした魅ぃちゃんがそこにいた。
・・・あれ、何だ。私の頭、ちゃんと上がるや。あんなに重たくて、もう一生上げられないんじゃないかってくらいだったのに。
たったの、一声で。


「うわっ顔白いよレナ!良かった来てみてー。ほら、手・・・いや、肩のがいっかな?貸すから、立って」

「え、あ・・・うん」

ぐい、と強い力で支えられる。あったかくって安心する、魅ぃちゃんの体。

「魅ぃちゃん、どうして・・・」

「ん?いや、なんか神妙な顔で梨花ちゃんとレナが出てって、梨花ちゃんだけもどってきたから。なんかあったんじゃないかなーって。来てみたらレナしゃがみこんじゃっててびっくりしたよ」

ああ。そうだこのひとは、そういうひとだった。正しく見れてるかは別として、他人を本当によく見ていて、いつも心配してくれてる。


「そっか・・・」

「うん。・・・なにがあったまでは聞かないけどさ。レナ、結構一人で抱え込んじゃう所あるから気を付けなよ?あたしで良かったらいつだって力になるし!」


――まぶしいよ、魅ぃちゃん。


あなたは真黒な私を、陽の光りの下に連れて行ってくれる。
嫌いになんか、なれるわけがないのだ。かっこいいけど本当はすごく可愛い所とか、優柔不断なだけど、だれよりも優しい所とか。

「ねぇ、魅ぃちゃん」

「んー?」


「大好き」


不意を突かれて目を丸くした顔も、照れて目を泳がせながら頬をかく仕草も、ぜんぶ。

「・・・どしたのさレナ、急に」

「ね、魅ぃちゃんは、レナのこと、好き?」

「・・・そりゃ、好きだけども」

その好きは、私の好きとは違う。それは苦しくて、寂しいことだけど。


「ずっと?」

「え?」

「魅ぃちゃん、ずっと私のこと、好きでいてくれるかな?」

「・・・当り前じゃん。ずっとずっと親友でいたいって、あたしは思うよ」

ごにょごにょと真っ赤な顔で、それでも真摯な言葉を返してくれる。親友。その言葉は、胸に刺さるけど。
・・・もう、なんか、しょうがないなぁって思う。

うまく言葉にはできないけど。悔しいし悲しいけど、そんなこと言われたらもう、だめだ。あなたの幸せを、心から願わずにはいられなくなってしまう。・・・その幸せに、必要なのが沙都子ちゃんなのなら。
あなたの隣は、沙都子ちゃんにあげよう。

「・・・・・・えへへへー。真っ赤な魅ぃちゃん、かぁいいなぁー。お持ち帰りしちゃだめかなぁー」

「ちょ、人が真面目に答えてる横で不穏な発言しない!なんだもうレナ元気じゃん!」

ささーっと素早く身を離す魅ぃちゃん。

「ん、魅ぃちゃんのおかげでだいぶいいよ。ありがと」

大好きなあなたに、精一杯の笑顔をおくる。

「ホントに?勢いではなしちゃったけどさ、肩くらいいつでも貸すからね?」

「うん。もう、大丈夫だから」

教室にもどったら梨花ちゃんに言おう。協力するよって、ちゃんと。
だから、それまで。教室へ行くまでの、ほんの少しの間だけは。
魅ぃちゃんを独り占めしても、いいよね?







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