文1

夏のあつい日
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「ててて、手を、つなが、な・・・つなぎ、ませんか?」

よくわからんテンションでミク姉がそう言ってきた。

・・・ミク姉、この状況でそれを言わないでほしいんだけど。

現在の気温、34℃。基本的にあたしたちのいるパソコン内は常に適温が保たれてるからこんな暑さになるはずはないのに。

原因はマスターの「私だけ暑苦しい思いをしてるのにおまえらだけ快適に過ごしてるとかおかしくね?おかしいじゃん?」という身勝手極まりない八つ当たり。
今がっくんとカイ兄とめー姉とレンが必死に説得中だ。
あたしは口が悪いのでご機嫌とりには向かないと言われて留守番。ミク姉は気が弱くて泣き虫ですぐ鬱になるので以下同文。

ルカ姉はどうやら暑さに滅法弱い人だったらしく冷蔵庫に頭つっこんだまま動かない。大丈夫だろうか。


「リ、リンちゃん・・・?」

「え?あ、うん」

「え?つ、つないでくれるんの?!」

「や、そういう意味でなく。つーか暑いじゃん。死んじゃうよ手なんか繋いだら」

ズガーンという効果音が聞こえた気がした。ミク姉は涙目になってあ、うんそうだよね・・・とかつぶやきながらあたしに背中を向ける。なんかそのまま死にたいとか言いそうな勢いで落ち込んでいる。

あああもう面倒な人なんだから!

「いやミク姉、この暑さが治まったらいくらでもつないであげるから」

「・・・今がいいの・・・」

気弱なくせに頑固だこの人!さらに面倒くさ!

「・・・あたし今手汗ひどいし」

「私もだから大丈夫・・・」

「や、恥いし」

「私もだから大丈夫・・・」

回避不可能かよぉお!大丈夫って何が!
言いたいことはたくさんあったが言うとさらに面倒だし・・・しかたないのか。
なんだかんだであたしもミク姉に弱いなぁ。

「・・・はい、手」

差し出す汗まみれの手。ぱぁっとミク姉の顔が輝いた。

「い、いいのっ?!」

あたしが返事を返す前にミク姉はがばっと両手であたしの手を包み込んだ。ミク姉の手も汗でべとべと。予想通りかなり暑い。なんかこのまま溶けちゃえそうだ。
ミク姉はそのまま無言で、でもにこにこしながらあたしの手を握り続ける。楽しいか?

「あっついね」

「だから言ったじゃん」

「手汗、もうどっちのだかわかんないね」

「べとべとできもちわるいよ」


それでもミク姉は嬉しそうだ。


「・・・ね、なんでいきなり手なんか繋ぎたがったの?」

「え?・・・えっとね」

照れ臭そうに笑いながら、ミク姉は答えた。

「汗だくのリンちゃんの手の感触が知りたかったの」

「・・・・・・はあ?」

「そういえば、まだ知らないなあって思って」

そりゃ、汗かく機会なんて仕事中くらいしかないけど。

「いやそんなん別に知りたくもなくない?」

「知りたいよ!・・・リンちゃんのことなら、なんだって」

「・・・ふーん」


くそ、恥ずかしい。あたしは思わずミク姉から目をそらす。
普段照れ屋でいいたいことも言えない癖に、ミク姉はこういうことだけははっきりきっぱり言ってくる。基準がわかんないよ、ミク姉。


「仕事で繋いだときはわかんなかったの?」

「仕事中は緊張してて手の感触なんてわかんないよ」

「・・・そっか」

極度の上がり症だもんね。
しかしあっつい。さっきよりも部屋の温度が上がってる気がするんだけどみんな何やってんだろ。

「みんな、マスターの説得成功してんのかな?」

「さあ・・・わ、私はリンちゃんとこうしてられるなら・・・ずっとこのままでもいい、よ」

・・・・・・・・・本当にもう、さっきからこの人は。

「・・・・・・あーあつい」

「そうだねぇ」

それからもふたりで暑い暑いってうだってたけど、結局手は説得に行った四人から明日には温度は戻してくれるという報告をうけるまで、握りっぱなしだった。
・・・あんなこと言われたら、離せとか言えないじゃん!








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