文1

不毛な恋に、芽生えたナニカ
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最近、あたしは少しおかしい。


「杏さんっ」

その声を聞いた途端、あたしの心臓が暴れだす。

「あの、こんにちは。・・・お一人ですか?」

その笑顔を見た途端、あたしの顔がとんでもなく熱くなる。

「あの、よければ一緒に帰りませんかっ?」

そんな友達としてなら当たり前の誘いに、たまらなく嬉しくなる自分がいる。

「・・・っ、い、いいわよ。せっかくだし、どっか寄ってかない?」

「わ、いいんですか?・・・えへへ。嬉しいです。ぜひご一緒させてください」


古河渚。多分あたしの、好きな人。

いつから渚に惹かれていったのかはよくわからない。
あたしが好きだったのは、朋也のはずだったのに。
いつの間にか朋也の隣の渚を見るようになってた。

不毛な恋から不毛な恋へ。全く、ばからしいったらないわ。自分にため息が出る。

ああ、だめだこんなこと考えて。せっかく隣に渚がいるのに。

「でも渚がひとりなんて珍しいわね。朋也は?」

それなのに、口が勝手に動く。あいつのことなんて聞いてどうすんのよ。

「え、岡崎さんですか?今日は春原さんのお部屋に行くって言ってましたけど」
・・・あんの野郎。こんな可愛い彼女放って春原ぁ?ふざけんじゃないわよ!

「・・・あの杏さん、どうしたんですか?」

「え?」

渚が、あたしの顔を覗き込む。
ち、近いわ渚!

「眉間に皺がよってます。心配事ですか?」

とすっと渚の綺麗な指があたしの眉間をついた。
そんな小さな接触にも、心臓は物凄い勢いで反応する。

やばいこの距離じゃ聞こえちゃうじゃない!

「え、と・・・ほら!こーんな可愛い彼女ほっといて朋也は何やってんのかしらねぇまったく!って思ったら、自然と、ね」

声で心音を掻き消そうとするけど失敗。声、震えるし、今絶対裏返った・・・ああもう最悪!

そんなあたしの台風状態の心の中とは裏腹に渚はぽかんと口を開けたまま固まっている。
え。あたしなんか変なこと言ったの?言ってないわよね?

「・・・渚?」

「え?あ、すみません。・・・あの、杏さん」

「な、何よ?」

「彼女じゃ、ないです」

「・・・・・・・・・・・・え?」

「私、岡崎さんの彼女じゃないです」

嘘。

「え、だっていつも一緒にいたし、」

「それは演劇部のお手伝いをしてもらってたからです」

マジ?

「・・・本当に?」

「本当です!それに・・・」

少しはにかむように笑う渚。あ、可愛いな。

「私が好きなのは杏さんですから」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?

「えぇえええええ?!!」

げ、幻聴・・・じゃ、ないわよね?!

「えっとそれって・・・恋してる方の、好き?」

「はい。・・・えへへ。言ってしまいました」


事もなげに渚は言う。
あたしはただ金魚のようにぱくぱくと口を動かすことしかできない。

え、これマジ?ドッキリ?
ドッキリならネタばらししないで幸せを噛み締めてる間に誰かあたしを殺して。今なら死んでもいい。
そんなことを考えながらフリーズしてるあたしをよそに渚はマイペースに話を切り替えた。

「さ、杏さん寄り道どこに行きますか?」

「え?え、あ、じゃあゲーセンでも行く?」

「わあ、私入ったことないので楽しみです」

・・・いやいや!何?ネタばらしなし?やっぱマジってことでいいの?!
でも渚、答え求めてこないし、え?もしかしてあたしが振っちゃったことになってるとか?冗談じゃないわよ!

ど、どうしよう?


迷った末にあたしは、

「じ、じゃー行こっか?」

「はい!」


流れに身を任せることにした。
や、なんか今告るのも流れ的に変だしね?
どうせ告るなら雰囲気ある感じでしたいじゃない!

渚、今に絶対言う!言うから!
どうか、待ってて。




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