文1

ヘタレが頑張ったようです
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かれこれ何分くらいこうしているだろう。

魅音は頭を抱えた。
尤もこれは例えの表現である。今魅音の両手は塞がっているので本当に抱えることはできない。

左手は今、目の前にいる下級生の少女の頬にあてられ、右手はその少女の小さな肩に置かれている。

少女の名は、北条沙都子。
一応、この二人は恋人同士である。

が、今二人の間にある異様な緊張感は恋人のそれとは程遠いものだった。

「魅音さん・・・いつまでこうしてるつもりですの」

「い、いつまでって、」

「もう5分はこうしてる気がしますわ」

「・・・・・・う」

恋人の声色はひどく刺々しい。

ああ、なんでこんなことに、と魅音は小さくため息をつく。

始まりは、ささいなことだった気がする。

いつものことだ。くだらないことを言い合って喧嘩になって・・・ただ、どうも沙都子の日頃の魅音ヘの鬱憤が爆発した、というか、今日は変な感じに転がっていってしまったのだ。

まがりなりにも恋人同士になって三ヶ月もたつのに手も中々繋げないとか。

キスもまだできてない、とか。
内容はまあ、そんな感じで。
そこから沙都子の猛攻撃が始まりヘタレだのいくじないだの散々罵られ、魅音も売り言葉に買い言葉というか、言ってしまったのだ。
『あたしだってキスくらいできるよ!』

心底後悔している。
無理。できない。できませんごめんなさい。
だってさ、と魅音は真っ赤になりながらも固く目を閉じて軽く顔を上に向けているいる恋人を見る。

そりゃあたしだってしたくないわけじゃないんだ。
でも沙都子ときたらなんかこれ以上触れたら壊れちゃいそうで。
それに沙都子は幼いと言っていいくらいの少女だ。
手を出すのはなんかすごい犯罪くさい。
いいのかなこれ?
よくないよ!たぶんきっと絶対!

今謝ったら許してくれるかな、無理だろうなあという不毛な思考をもう何分繰り返しただろう。
沙都子から発せられる刺々しさま増しに増してもう爆発寸前の様子だ。

やるしかないのか。
やるしかないんですか。


ええいままよ、根性見せろあたし!

こんなかわいらしい恋人に恥かかせるわけにはいかないじゃないか!

そうだあたしだってやれば出来るということを見せてやろうじゃないか!



そう、必死に自分をふるいたたせた魅音は意を決してそっと己の顔を沙都子の・・・・・・・・・おでこに、近づける。

そっとそっと、宝物を扱うようにそこに触れた。

髪のやわらかい感触が唇にくすぐったい。

顔を離すとさっきよりもさらに真っ赤にになった恋人がこちらを見ていた。

タコみたいで可愛いなあ、というのは流石に口には出さない。
気の利いた言葉はいえそうになかったので、変わりに一言。

「さ、帰ろ。送ってく」

裏返った声をごまかすように照れ笑いといっしょに手を差し出す。

沙都子は素直に頷き手をとってくれた。

さっきまでの刺々しさがなくなっていた。とりあえずでゆるしてくれたらしい。
可愛い恋人のそんな様子に次は沙都子の不満がたまる前にほっぺに出来るくらいにはなろう、と心にそっと誓う魅音だった。







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