文2

□嘘吐き二人
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「め、めーこなんかき、き、ききっ、きらいなんだからねっ!」

 その一言で目が覚めた。寝呆け眼でその声が聞こえた方を見ると朝早いというのに既にいつもの服を着ているリンがいた。欠伸を一つして、目をこすり、それからリンの顔をきちんと見るとリンは顔を真っ赤にしてこっちを見ている。そういえば、先程リンが何か叫んでいた気がする。…なんて言ってたっけ。リンが期待に満ちたような目であたしを見るけれど、何を言っていたかさっぱり思い出せない。朱に染まったほっぺをしているリンも可愛いな、なんて考える。

「……?」

 あたしが何も反応しないからか、リンが少し不安そうな表情になった。そんなリンも可愛いけど、そんなに見られてもあたしはリンの言葉を思い出せない。

「…あー、ごめん。あたし寝てたからなんて言ってたか聞いてなかった。」
「へ、あ、あー…そう。」

 リンがしゅん、と視線を下に下げた。リボンも傾いて、リンの顔に影が出来る。が、すぐに顔を上げた。リンは強がりだから、あたしに残念がってるところを見られたくなかったんだと思う。少しだけ瞳が潤んでいた。かーわいいなぁ、ほんとにリンは。とりあえずのそりと起き上がってリンに手を伸ばすと、リンを抱き上げてベッドに転がした。リンが可愛いからわるい。

「え?…な、なななななにすんのめーこ!」
「んー、なんかリン可愛いなーって思ってさ。」
「…だ、だからなんで!」
「一緒にごろごろしよっかなーって思っただけよ。なに?なんかされると思った?」
「べ、べべっ、別になんも考えてないって!めーこなんか、きらい!」

 あたしもベッドに転がると、リンはぷいっとそっぽを向いた。素直じゃないな、リンは。そこも可愛いんだけど。ぎゅーっと後ろからリンを抱き締める。あったかいなー可愛いなー。

「…めーこ。」
「なーに?」
「…キライって、さっき言ったの。」
「最初に叫んだときに?」
「…そう。」

 リンの態度から察するに、そうなんだろうな。こっちからリンの顔は見れないけど、いつもみたいな素直じゃないかんじとは違う気がする。まあ、リンがあたしをキライとかあるわけがないからいいんだけど。リンが期待したような目をしてたのはなんでだろう。

「め、めーこ…なんかないの?」
「なんかって?」
「…なんか言いたいこと、とか。」
「リンは相変わらず可愛いなー、とか?」
「なっなっなに言ってんの!」

 今きっと顔真っ赤なんだろうな、とか思ったらなんだかにやけてきた。あたしの恋人はほんと可愛い。でも、リンは何言ってほしかったのか。わからないなぁ。あたし、あんまりそういうの気付けないんだよね。そういえば、キライって言って何かを期待するってちょっと変ね。……ん?あ、そっか。わかった。嘘だから、期待したのか。今日だもんね。

「エイプリルフール?」
「……っ!」
「もしかして、エイプリルフールだから嘘吐いたの?」
「………。」

 尋ねたとき、リンの肩がびくりと揺れた。あ、図星っぽい。それでキライ、ね。やっぱりリンは可愛いなぁ、うんうん。キライは嘘ってことは大嫌いは大好きだもんね。なんだろ、この可愛いいきもの!

「リン、好きー。」
「あたしはキライだもん。」
「うそ、でしょ?ちなみにあたしのも嘘。」
「…え?」

 リンがあたしの方に振り返った。すっごい顔近いなぁ。リンは信じたくないような顔してて、さすがに意地悪だったかなって思う。でもね、嘘ってのは本当なんだけどね。

「だって、あたしはリンのこと愛してるのよ?好きって程度じゃ嘘になるから。」

 笑って言ったら、リンの顔が一気に赤くなった。愛してる、なんて言葉は信用ならない言葉だけど、こういう使い方は有りよね。実際好きじゃ足りないくらいの想いをリンに抱えてるし。とりあえず、リンが可愛いからリンにキスをした。

「さらっと何言ってんの!てか、ききっ、きっ、キスなんかすんなバカァ!」
「でも、嬉しいでしょ?」
「嬉しく、ないもん。めーこなんかキライ。だいっきらい。」
「ん、あたしもだいきらいよ、リンのこと。」
「う…あたしのがもっとキライ、だもん。」
「いやいや、あたしのがもっとリンのことキライだってば。」

 素直じゃない可愛いあたしのお姫様に、あたしの愛を込めた嘘を送ろう。真っ赤なリンをあたしはぎゅっと抱き締めた



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