文2
□伝えたいこと
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「めーこめーこ、ちょっと」
「んー?」
ソファに座って雑誌を読んでいたあたしの愛しい恋人から雑誌をとりあげる。
それをテーブルに置くとあたしはその場で屈んでめーこに背中を向けた。
「さ、どんと来い!」
「え、え?なにどう行けばいいの?」
めーこは鈍い。この体勢で来いと行ったら一つしかないじゃんか。
「おんぶ」
めーこが目を丸くした。
「誰が、誰をおんぶ?」
めーこは本当に鈍い。だからこの体勢だったら決まってるじゃん!
「あたしが、めーこをおんぶ!」
突然何、と言われるかもしれない。
恋人っぽいことをしたくなったのだ。唐突に。基本的にあたしたちの関係は、名前だけは恋人だけどやってることはその辺の仲良し姉妹と変わらないと最近気付いたから。
漫画で主人公が怪我をしたヒロインをおぶっているシーンを見てピンときたのだ。
あたしは常々あたしとめーこには何か足らないと思ってたけど、それが何かそのときやっと気付いたのだ。
そしてもうひとつ、気付いたことがあって。
「めーこ、乗って」
「乗ってって、あんたね・・・」
露骨にあんたそれは無理なんじゃないの、と言っているめーこの顔。
「大丈夫だって」
「いや、あたし重いわよ?」
確かにめーこは筋肉もついてるし胸もでっかい。でも、
「たとえ重くてもあたしは、めーこの重さなら百キロだって受け止めるよ」
もう一つ、気付いたこと。
めーこは、あたしに“恋人らしいこと”を教えたがらない。
たぶんあたしが子供だからなんだろうなーとは思う。外見的な年の差は確かに七、八歳はあるだろう。
めーこはじょーしきを大事にするし、あたしのことも大事にするから。
ばかなめーこ。
あたしは、大丈夫なんだよ?
それがこれで示せるかなーと思ったのだ。あたしは力持ちだから。あたしは頑丈だから。
大事にしすぎなくてもいいんだよって。
対等に、例えばルカちゃんにするみたいに酔っ払って絡んだって多少乱暴に扱ったって、甘えたって大丈夫なんだよって。
めーこの重さを預けたって、絶対支えてみせるから。
「めーこ早くー」
「・・・・・・無理だと思ったらすぐ降ろすのよ」
「ラジャー」
躊躇いがちに背中にめーこの感触が広がる。
「おー・・・やっぱりめーこ胸でかい」
「な、何言ってんの!」
「あっはは。冗談だよー」
めーこの体重がかかったのを確認してあたしは立ち上がった。ずしっと体全体にのしかかる重み。
・・・ま、負けないっ!
「うお、お、おー!」
なんとか持ちこたえた。
そのまま一歩歩いてみる。
「リン大丈夫?無理しなくていいのよ」
「よ、ゆー!ぜんっぜん重くない!」
空元気。だけど、あたしがこうしてめーこをおんぶできてるのは事実。
「ほら、めーこ。あたし、めーこのことくらいおぶえるからね」
一歩、一歩、また一歩。あたしたちは前に進む。
「・・・リン?」
「めーこがあと百キロ太っても、大丈夫だから」
「いやそれはないから」
「だからね、めーこはあたしにもっと頼っていいからね。あたしはめーこの支えになれるから、めーこはあたしが守るからね」
「・・・・・・・・・、リン」
ありがと。
耳元で小さくそんな言葉が聞こえた。
純粋に嬉しそうなそれは、本当にわかったというよりは子供が母親に持ってきた一輪の花を喜ぶような響きな気もするけど。
全部じゃなくてもいいから、めーこの心にあたしの気持ちが届いたらいい。
取りこぼし分は、また今度伝えればいいだけだしね!
「うん!」
背中の体温があたしの力になる。このまま、どこまでだって歩けそうな気がした。
とりあえず一歩は進めたんだ。それがただ、嬉しかったから。
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