文1

運命の赤い毛糸
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惹かれ合う恋人同士は、小指と小指が赤い糸で繋がれているらしい。






「・・・ミク姉何してんの」

「んー?」

リンちゃんは自分の小指と私の顔を交互に見てうんざりとしたような口調で言った。

「見ての通り、ほら」

私はリンちゃんの手をとり自分の小指とリンちゃんの小指を並べて見せる。
ふたりの指に巻かれた赤い毛糸はとてもステキなものな気がして胸がはずんだ。

「ニヤニヤしないでよ、気持ち悪い」

「失礼な。ニヤニヤじゃなくてにこにこしてるんだよ」

「あっそ」

私の訂正を軽く流してリンちゃんは不機嫌につかまれた手を振り払う。

「で、これ何」

「え、リンちゃんったらこれが何かわからないの?」

「いやわかんないわけじゃないけど一応…って聞いてる?ミク姉」

なんということでしょう!
これは私が手取り足取り教えてあげちゃう個人授業フラグってやつなの?ミク先生の個人授業のスタートなの?

個人授業って言ったらエロいことするためにあるようなイベントじゃない!

それに仕事以外のいろんな知識を普段は教えられるばっかりな私としてはかなり嬉しい機会。

私は喜び勇んで得意げに人差し指を立てた。
いいですかリンちゃん、なんて前ふりなんかして先生っぽさを演出してみたりする。
ふふふ、雰囲気出てるかな?

「教えてあげましょう!これはね、運命の赤い糸なの」

「あーやっぱりか」

冷めた口調で言ったリンちゃん。
次の瞬間、なんということでしょうリンちゃんは糸をはずそうとしたではないか。
私は慌ててその罪な手をがしっとつかんで阻止する。

「ちょちょちょリンちゃんリンちゃんタンマタンマ。おねーちゃんが今説明するから。いーい?運命の赤い糸ってゆーのはね、」

「知ってる」

「ご存知なの?!」

どこまでもドライに一刀両断するそのさばさばした所も大好きだけどさすがの私ショックを受けた。

「なんで知っててはずそうとしてんの?!リンちゃんの人でなしー!泣いちゃうぞー!ミク姉泣いちゃうんだからねー!」

リンちゃんが私のこと大好きなのは知ってるし信じてるけどこうも扱いがひどいと私だってこう、悲劇のヒロインチックに凹んだりしたくなる。
しかしそのへんの切ないヲトメゴコロは、リンちゃんにはわからないらしい。

「あーうっさい」

と心底めんどくさそうに恋人ってどうなの?!って感じの言葉を放って放置されてしまった。

な、なによなによそんなに冷たくすることないじゃない!

「…リンちゃんのばか!」

もういい拗ねてやる拗ねてやる。
私は体育座りをして床にのの字を書きはじめた。

「…なにやってんのミク姉」

しばらくするとリンちゃんが声をかけてきたけど思い切って無視する。
もう知らないんだから!

「ちょっと、ミク姉?」

知らないったら知らない!
さらに無視を決め込むと、後ろからはぁとため息が聞こえた。
え?あれ、もしかすると見捨てられた?と不安になる。

「…ほら、ミク姉これ」

「…?」

肩越しに何かを差し出されたのがわかった。
布?
最初はハンカチかカバーのついているティッシュかと思った。
だけどリンちゃんを見上げもせずに受け取ったそれは、思っていたよりもずっと分厚くて、あったかくて。

「うえ?」

顔を上げて掴んだものを見る。
それは、オレンジ色のマフラーだった。少し粗い編み目が市販のものではないということを物語っている。

「え、え。え?」

市販のでない、とするとつまり、これは。

「…ごめん。お詫びあげるから機嫌なおしてよ。頑張って編んだからちゃんと使ってね」

ぷいっとそっぽむかれたけど、うわ。うわーー!

固まってしまった。だって手編みのマフラーなんて・・・私のためにリンちゃんがそんなことしてくれるなんて。

ど、どうしよう。
嬉しすぎてどう反応していいかわからない。

「・・・赤の方がよかった?」

「え?」

見るとリンちゃんがいじけたようにそっぽを向いている。


「なら別にもっとちゃんとした赤いの編むのもやぶさかじゃないけどさ」

なんて言ってくれた言葉があったかい。
馬鹿な私。こんなかわいい子に対して言うことなんて、リアクションなんてひとつに決まってるじゃない!

「ありがとうリンちゃん愛してるよっ!」

叫んでその小さな体に抱き着いた。
イエス!レッツボディーランゲーージ!

「ぐわっ・・・苦しいってちょっとどこ触ってんのばかミク姉ーー!」



そこからはくんずほぐれずの格闘という名前のいちゃいちゃタイムに突入した。
現金かな?目に見えない赤い糸よりも、こうしてリンちゃんが頑張って形にしてくれたマフラーの方がやっぱいいいなーとか、思っちゃったよ。

そして散々二人でじゃれ合った後、リンちゃんはそっと言ってくれた。

「・・・あたしも愛してるよ」

私がこらえきれずにまたリンちゃんをぎゅっとしたのは、言うまでもない。






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