文1
□可愛い可愛い苺ちゃん
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「メイコさんって苺みたいですよね」
「はあ?」
あまりにも脈絡なく発せられた言葉にメイコは思わず読んでいた雑誌から目を離し、向かいに座る人物をまじまじと見つめる。
「苺って、果物の?」
不可解といわんばかりに問い掛けるとルカは涼しい顔で答えた。
「他に何があるんですか」
「・・・某ジャンプ漫画の主人公とか」
ふざけた風でもなくそう例えを挙げたメイコを今度はルカが怪訝そうに見つめる。
「男ですよそれ」
「あんたが例えたのは果物じゃない」
人外じゃないこっちのがマシでしょ、とメイコは視線を反らした。
あ、照れてる。ルカはそれを見てニヤニヤと冷やかすような笑いを隠さない。
「なによ」
「いえ、照れてるメイコさんがかわいらしいので」
「・・・あんたが苺なんて言うからでしょ」
あんなかわいらしいもの、あたしに似てるわけないじゃないと小さく反論してメイコは落ち着かなそうに目線をそらした。
「でも本当に似てますよ」
それでもルカは話題を続けたのは、メイコが少し嬉しそうに見えたから。
なんとなく「かっこいい」オーラを出しているメイコは自分を可愛いと言う人間に対する対処に慣れていない。可愛いと言われる言葉自体にも。
そしてルカはメイコのそんな所がたまらなく愛しいと思う。
「・・・どこが」
「赤くて可愛くて甘くて時々酸っぱくて、やっぱり可愛い所」
大事なことは二回言いました、とおどけるルカはからかっているのか本気なのかよくわからない。
「・・・ありがと」
でもやっぱり嬉しいメイコは口調はちょっと頑なだったが、目を泳がせながら一応御礼を言った。
「念のため言っておきますけど、本心ですからね」
「わかってるわよ」
でも、仮に本気だとしても恋人の欲目だろうとメイコは思う。
だけどそうわかっていても、それはメイコにとって宝箱にそっとしまっておいたくなるような言葉だった。
(苺・・・苺ねぇ)
小さくて丸っこいその果物を思い浮かべてこっそりと笑みをこぼす。
(そんなことを言ってくれるルカの方がずっと可愛いのにね)
欲望に忠実すぎるきらいはあるけど素直だし、華奢だしピンクだしよく笑うけどあまり怒らない。
そう、自分なんかよりずっと女の子らしくて。
「メイコさん」
不意に、名前を呼ばれた。
「ん?」
「私、メイコさんが大好きです」
言ったルカは真顔である。
またしても脈絡のない発言に言われた方はごほっと意味もなく咳込む。
もう何十回と聞いた言葉でも、ドキドキするから突発的に使うのはやめてほしかった。
「え、うん・・・あたしもだけど」
「あたしも、なんですか?」
真顔で追求されると、困る。恥ずかしいじゃないと相手を見ても真顔じゃ逃げられやしない。
別に嫌なわけではなく、むしろその反対だったのでたどたどしくも先を言うメイコだった。
まったく、これじゃどっちが年上かわからない。
「・・・あ、あたしも・・・大好き、だけど」
だからどうしたのよ、といじけ気味に口を尖らせてメイコが非難するようにルカに視線をやると、花が咲くようにほほえまれてまた困惑した。
そんなメイコを知ってかルカは優しげに恋人に語りかけた。
「ね、メイコさん」
「なによ」
「メイコさんは存じ上げないでしょうけど、私に『大好き』って言って下さるメイコさんのお顔はそれはそれはかわいらしいんですよ」
鏡を持ってきて差し上げたいくらいにね、なんてことを言うルカ。
その言葉が全部わかってますよと言っているようでメイコは頭を抱えた。
――恥ずかしいのと、あとちょっと悔しい。
「・・・あんたエスパーかなんかか」
悔し紛れに放つ一言もなんだか負けたみたいだ。
たぶんこの感情の正体は心地よい敗北感と嬉しさを感じてしまう悔しさ。
「メイコさんがわかりやすいんですよ」
「・・・そんなに?」
疑問そうに顔をぺたぺた触るメイコにルカは少し眩しそうに目を細めた。
「そんな所も、可愛いです」
心からの言葉。聞いた途端にメイコは俯いてしまったのでどんな顔をしているかはわからない。
でも。
「・・・ありがとう」
今度の声は、さっきよりは素直そうな響きを持っていたので、ルカは嬉しそうにはいと返事をしてにっこりと満足そうにほほえんだたのだった。
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