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□砂糖付け記念日
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1月30日が何の日かご存知だろうか。
「知ってるわよ。あんたの誕生日でしょ」
はいプレゼント、とメイコさんは綺麗に包装された小さな箱を渡してくれた。
「ありがとうございます・・・でもメイコさん、そこはプレゼントはあ・た・し括弧はあと、みたいなサプライズを全身リボンでしてしかるべき所ではないでしょうか」
「今すぐその包みを返せ変態」
素直に欲求を口にしたら胸倉をつかまれてすごまれてしまった。
「ふふふ。ワイルドなメイコさんも素敵です」
こわい顔とはいえ至近距離にメイコさんのお顔もあることだしここはキスでも、と思ったら途端に手を離されてしまった。
勘が鋭くていらっしゃる。
「・・・あんたもう手遅れだわ」
「ええ。治療不可能までメッコメコにされましたから」
外ならぬ貴女にね、と手の甲に口付ける。
そしたらすぐにうっすら赤くなる頬。ああなんて素敵な時間かしら。
「願わくば、貴女も同じ末期症状に陥ってもらいたいものですが」
するりと手を握っていた手を彼女の顔に昇った赤に這わせる。
「・・・・・・ばあか」
「ふふふ。光栄ですわ。私は立派なメイコさんばかだと自負していますから」
「あんたには口で勝てる気がしないわね」
そうでもないです、と謙遜はしない。なにせこのひとへの愛の言葉のボキャブラリは尽きる気がしないから。
「では負けてしまったメイコさんにクイズをひとつ出しましょうか」
「・・・?なによ」
ふふふ、と笑ってぱっとメイコさんから距離をとる。
「今日が何の日か、ご存知ですか?」
最初に投げかけた問いを、もう一度貴女に。
「え?だから、あんたの誕生日」
「ぶーです。不正解」
「はあ?」
怪訝そうな顔。でもこの問いの答えは別にある。
「まあ、完全に不正解なわけではないですがね。私の欲しい回答じゃないのでバツとさせていただきました」
負けず嫌いのメイコさん。むっとした表情で思考を始めたようで私は嬉しく思う。だってきっと今メイコさんの頭の中は私でいっぱいだから。
「あんたの欲しい回答なんてわかるわけないじゃない」
ぶつくさ言いながらも髪をかきあげたり腕を組んだりしてメイコさんは考えるのをやめない。
「ではヒントです。昨年1月30日は僭越ながらも私に興味を持って下さったマスターが予約していた私を引き取りに来てくれた日ですよ」
「それって・・・」
「残念ながらヒントは回答ではありませんよ」
もう答えじゃない、とか言おうとしたんであろうメイコさんをさえぎると悔しそうに視線をそらされた。
「ふたつめのヒントです。私、その日たくさんの“生まれて初めて”を経験しました」
「初めてマグロを食べた日?」
「ちがいます」
確かに衝撃的でしたけどね。でもそろそろ察してくれてもいいのに。この流れで貴女に聞くんだから貴女絡みじゃないわけないでしょう?
「答え言っちゃいますよ」
「え、ちょ待」
「私は結構待ちました」
離していた距離を一気に詰めて、私よりほんの少し背の高い恋人を抱きしめる。
「私が生まれて初めて“恋をした日”が、今日なんです」
勿論貴女に、と鈍くてこれでも勘違いしそうな彼女に釘を刺す。
「私告白した時言いましたよ?『一目惚れでした』って」
肩口に囁いて横目でメイコさんを窺う。
「・・・ふふふふふー」
「な、笑ってんじゃないわよばか!」
「だって」
予想通りすぎて。耳まで真っ赤ですか。そうですよねメイコさんはそうでないと。
「・・・あたしだってね、」
あら。
がっしりと背中に手を回される。
「初恋記念日、もうすぐなんだから」
一目惚れじゃないけど、そんなに時間差はないのよ、なんて。
ああ、まったくこの人ときたら。
恥ずかしさを押し殺した声がどれだけ私にダメージを与えてるかなんて、気付きもしないで。
「まあウェルカムですけどね、そういうの」
「は?何が」
「メイコさんはそのままでいて下さいってことですよ」
「・・・馬鹿にされてる気がする」
「褒めてるんですよ」
さて、と。
「じゃあクイズ不正解なメイコさんには罰ゲームです・・・と言いたい所ですけど」
「けど?」
「メイコさんがかわいいので、ご褒美に今日は一日中私とらぶらぶしましょう」
嬉しいでしょう?と体を少し離してメイコさんに笑いかける。
「・・・別に、最初っからそのつもりよ」
それを合図に唇を重ねる。
私の誕生日兼初恋記念日はそうやってこれ以上ない幸せに包まれて過ぎていった。
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