短編
□塩少々
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「三郎、何かして欲しいこととかある?」
夕食時も過ぎたこの時間帯の食堂には彼以外に誰もおらず、野菜を刻む音だけがトントンと小さく響いた
幾日か前に己が聞いた問いを思い返してみる
友人の答えは普段の悪戯好きからして大それた答えを示されそうだとは思ったが、結果、たいそうなことではなかったのだ
「…雷蔵?こんなところにいたのか、探したんだぞ」
「あ、三郎!おかえりー。」
ただいま、と食堂にもう一人の影が現れて、ふらりと近寄る
「夜食?」
「三郎、お使いで食いっぱぐれたと思って作っておいた。」
「え、本当に!?」
「前に味噌汁食いたいとも言ってたしな。」
「あれは…そのー…。」
急に目線をきょろきょろとさせたのを不思議に思いながらお椀にできたての味噌汁をよそる
「はい、おばちゃん程の腕前じゃないけど、召し上がれ。」
腹を空かせた友人の手前に熱い湯気が立ち込め、味噌汁の香りにつられて思わず三郎の腹の虫がぐぅと鳴った
「ありがたく、いただきます!!」
行儀よく手を合わせると、よっぽど腹が減っていたのか、うまいうまいと食していく
その珍しい姿に驚いて目をきょとりともさせたが、すぐに柔く目尻が下げられた
「いつもありがとう、三郎。」
「…?」
「僕が迷った時は道を示してくれる、僕にはない感情を与えてくれる。
三郎には感謝してるんだ、だからいつか何かお返しができたらなって思ってさ」
「…それで、この前あんなこと聞いたのか」
「三郎の願い通りにはできなかったけどねー」
「それはいいんだ、いつか叶えてみせる!」
『毎朝私のためだけに味噌汁作って下さい!!』
「でもね、雷蔵。味噌汁に塩はいらないかな」
「え、そうなの!?」
塩少々、愛情多分につき
「少し回りくどかったかな」
*風明流ちゃんへ勝手に捧げます!お誕生日おめでとう!
誕生日に絡ませたかったのですが断念…ごごごねんね!