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□〜プラネタリウム〜
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 数日後、土曜日の早朝。羽田空港の到着ロビー。
「わかった、わかった。えっ?だから大丈夫だって。そろそろ亜梨沙が着く頃だと思うから、じゃあ切るよ。」
 俺は、携帯電話を切りながら小さく舌打ちをした。継母からだった。亜梨沙の事が心配なのだろう。今朝、亜梨沙は継母と一言も口をきかずに家を出て行ったらしい。結局、”家出”ではなく”東京に遊びに行く”という方向で亜梨沙を説得したのだが、やはり本人は家出の気持ちなのだろう。しかし…本当に来るのだろうか。もしかすると、本当に家出するという事は考えられないだろうか。ふと不安が過る。何故なら、兄貴に似て自由奔放な所があるからだ。
 ───頼むから来てくれよ。面倒起こすなよ。
 握りしめた携帯電話で時間を確認して、発着の電光掲示板に目をやる。米子空港からの便は定刻通りに到着したようだ。俺は、喫煙スペースに移動して亜梨沙からの連絡を待つことにした。だが、タバコを1本吸い終わっても連絡がない。亜梨沙に電話をかけてみたのだが繋がらない。電源を切ったままにしているようだ。俺は妙な胸騒ぎを抱えながら、亜梨沙を探しにロビーへと戻った。辺りを見渡しながら歩く速度も自然と上がる。そして、エスカレーター手前に並んだソファーの前で立ち止まった。思わず心の声が漏れる。
「ふざけんなよ…。」
 亜梨沙がソファーに腰掛けて雑誌を読んでいたのだ。少しムカついたが、正直、ホッとした。同時に亜梨沙のペースに巻き込まれている自分が情けなく思える。やはり、兄貴そっくりだ。
「亜梨沙…。」
「あっ、博人兄ちゃん!着いたよ。」
 亜梨沙は何事もなかったかのように立ち上がる。丈が長めのニットジャケットにブーツ。最近の小学生はオシャレだな。
「着いたら電話するって言ってたじゃねえかよ。」
「ごめんなさい。」
 亜梨沙は、俺の少し機嫌の悪そうな声を察して、雑誌を閉じて俯いている。俺は、兄貴を相手にしているような感覚だったので、亜梨沙の”素直さ”に面食らってしまった。大人気なかったな。
「まあ、いいや。どこに行きたい?どこでも連れて行ってやるよ。」
「ホント?」
 本当に嬉しそうだ。亜梨沙の笑顔を見るのは久しぶりだな…と言うより、一緒に暮らしていた頃は気付かなかったのかもしれない。それに、この何年かは家の中の雰囲気がギスギスしてたし、やっぱり辛かったんだろうな。
「いいよ。そうそう、夕飯は伯父ちゃんの店に行くから。」
「みんなに会うの久しぶりだけん楽しみ。」
「オヤジの法事以来だもんな。じいちゃんは勿論、伯父ちゃんも伯母ちゃんも楽しみにしてるよ。」
「真人兄ちゃんも来る?」
「気が向いたら来るんじゃない。それより何か食おうぜ。」
 俺は亜梨沙とロビー内のカフェに入り朝食を摂った。途中、亜梨沙に気付かれないように継母と連絡を取り、無事に着いたという事を知らせておいた。その後、お台場から渋谷、原宿、新宿と亜梨沙の言う通りに付き合い、ヘトヘトになった頃には、すっかり日も暮れていた。
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