another story

□〜プラネタリウム〜
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 ある日の夕方、俺は仕事を終えて帰宅途中、タメ息交じりで歩いている。原因は数分前に、かかってきた妹の亜梨沙からの電話だった。母親と口喧嘩になったらしく、”あたし家出して東京に行くけんな”と言い始めたのだ。宣言してするものではないだろうと思いながら、最初は相づちを打ちながら話半分で聞いていたのだが、どうやら今回は本気らしい。WebSiteでの航空券予約の方法など、質問が具体的なのだ。次第に亜梨沙の口調が熱を帯びていく。俺はキャッチが入ったとウソをつき、すぐに電話を折り返すと言って、ひとまず電話を切った。
 あれこれ考えている間にマンションに着いた。ポケットから鍵を取り出そうとすると、携帯電話の着信音が鳴る。継母からだ。間違いなく亜梨沙の事だろう。
「もしもし、博人…。今、少し話しても平気?」
「大丈夫だけど。」
「亜梨沙から電話なかった?」
「さっき、かかってきたよ。また喧嘩になったんでしょ。」
「進学の事で…少しあってね。”この家を出て行く”なんて言い始めちゃって、部屋に閉じこもったのよ。こうなると頼るのは、いつも博人だから。」
 継母は疲労困憊といった感じの、か細い声だ。
「亜梨沙、家出するって。今週の土曜日に、こっちに来るってさ。」
 どうせ俺に止めて欲しいのだろうと思うと、面倒臭く少し冷たい口調になる。だが、継母から返ってきた言葉は意外なものだった。
「そう…。じゃあ博人の家に泊めてあげてくれない?」
 吸い込んだ息が一瞬止まり、次の瞬間、少し声を荒げてしまった。
「おいおい、家出を許す親が何処に居るんだよ!それに亜梨沙、学校どうすんの?」
「あの子も気分転換が必要なのよ。きっと日曜の夜には帰って来ると思うから。あの子、6年間の皆勤賞が懸かってるのよ。」
 何故だか分からないが、継母に”母親”を感じた。
「ちょっと待ってよ。俺の部屋は無理だよ。ワンルームで狭いし、布団無いし。兄貴の部屋も似たようなもんだから。まあ、じいちゃんの家なら問題ないと思うけど。」
 少しの間、沈黙が続いた。
「………そうね。」
「大丈夫だよ。俺が、じいちゃんに頼んでおくよ。あと、亜梨沙にも家出じゃなく、東京に遊びに来るって事にさせるから。」
 そう言って電話を切った。
 結局、俺が亜梨沙の家出の面倒を見る事になったのだ。
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