another story

□〜プラネタリウム〜
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 僕は”さよなら”の向こう側へ…一歩踏み出せたのだ。

 夜の皆生海浜公園。綺麗な光の花がパッと咲いて、暗闇に飲み込まれるように散っていく。その度に映し出される結子の表情。無邪気に笑った顔、いきなり飛び出す火花に驚いた顔、煙の風下に立った時のしかめっ面、そして少し俯いた寂しげな顔、僕はその一つ一つを心に刻んでいく。

 たくさん買ったはずの花火セットは、あっという間になくなった。僕は静寂を、暗闇を吹き飛ばすように声を張り上げた。
「じゃあ、まだ時間も早いことだし、結子の第2回送別会やりますか!」
「慎太郎〜。今日は無理して盛り上げんでもいいけんね!」 
 結子が笑いながら少しあきれた声で答える。当然のことながら、相沢や香奈達は行く気満々といった様子だ。今夜は楽しい酒が飲めそうだ。
 僕らは花火の後始末をして、公園を後にして歩き出す。その途中、メールが入ってきた。僕はポケットから携帯電話を取り出し画面を見た。少し前を歩く結子からだ。
「慎太郎…ありがとう。」
 僕はしばらく文字を見つめた。本当に嬉しかった。そして、夜空を見上げながら吸い込んだ空気は、少し切ない夏の匂いがした。
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