another story

□〜プラネタリウム〜
55ページ/89ページ

 悟志の四十九日が終わり、あっという間に春も過ぎ、天気予報によると来週には梅雨が明けるそうだ。
 僕は仕事を終えて、いつもの居酒屋へ向かって国道沿いを歩いている。こうして歩くのは久しぶりだ。安い中古車を買ったのだ。この半年間で、僕を含め周囲の環境がずいぶん変わった。喋り方は少しずつ米子弁に戻りつつあるし、何よりタバコをやめた。そして、結子には退院後に再度告白したが…フラれた。すべて捨てる覚悟だった。東京の友人に頼んで仕事を紹介してもらい、両親にもそれとなく話をしていたのだ。しかし、それも泡と消えた。結子は、以前に病室で言っていた通り、東京の美容室で働く事になったらしい。今夜は友人達が集まって彼女の送別会を開くのだ。勿論、仕切るのは香奈なのだが、最近年下の彼氏が出来て付き合いが悪い。相沢は、仕事がうまく行っていないらしく、こちらも付き合いが悪い。みんなで集まるのは本当に久しぶりなのだ。

 繁華街に差し掛かると雨が降ってきた。雨粒が大きい。これが梅雨の最後の雨になるのだろうか。僕は鞄から折り畳み傘を取り出して広げた。
「慎太郎!」
 後ろから結子の声が聞こえて、振り返ると駆け足で僕の傘に入ってきた。
「お疲れ!もう足は大丈夫みたいだね。それにしても傘持って来てないの?」
「忘れた。店の手伝い終わって、急いでお母さんに送ってもらったから。」
 傘を持つ腕に、結子の体温が伝わってくる。そして、ジメジメした空気を払いのけて、結子の香りが漂ってくる。僕は唇の裏を少しだけ噛んで、込み上げる切なさをこらえていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ