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□〜プラネタリウム〜
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 遠目ではあるが、7年ぶりに見る結子は大人っぽさが増して綺麗になっていた。しかし、目の前にあるのは認めたくなかった現実だ。すぐに全てを受け入れることが出来ない。一刻も早くこの場を立ち去りたかったが、あと少し結子の姿を見ていたい、見とれていたい。そんな気持ちが複雑に交差しながら足元に絡み付いていく。僕は、およそ20メートル先の結子達から視線を外す事が出来なくなっていたのだ。
 結子がカゴの中の野菜を手に取り、何やら悟志に話しかけている。それに応じる悟志の表情は穏やかだ。幸せそうな空気が漂っていて、会話の内容など想像したくもない。1秒ごとに僕の鼓動が早く強くなり、気持ちが鋭く尖っていくのが分かる。悟志の顔面を殴り飛ばしてやりたい。それが理不尽だということは分かってはいるが、何でもいいからムチャクチャにしたい。後の事なんてどうでもいい。心が冷たく凍ってくように破壊的な衝動に支配されていく。そして、僕の鈍い足音は2人との距離を縮める。1歩ずつ、さらに1歩ずつ。
 突然の事だった。僕は金縛りにでも掛かったかのように動けなくなった。結子と目が合ったのだ。
「慎太郎?やっぱりそうだ!」
 結子は悟志の袖を引きながら僕がいることを知らせる。僕を見つけて嬉しそうな結子と、ばつの悪そうな悟志は対照的な表情だ。そして、今度は結子が足早に僕との距離を縮めてくる。その後で引っ張られるように付いてくる悟志。あっという間に距離は無くなり、結子が笑顔で話しかけてきた。
「久しぶりだね!何年ぶりかな?元気だった?こっちに帰って来たんでしょ?連絡くらいしてよ!」
 久しぶりに聞く結子の声が、やり場を失った僕の感情を急激に溶かした。
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