another story

□〜プラネタリウム〜
39ページ/89ページ

「冷てえ奴だな。まあ元気そうだけん安心した。結子の事は忘れろよ!じゃな!」
 昨夜、一人で帰った僕を心配して電話をくれたのだろう。相沢の心遣いは有難いが、一言よけいだ。確かに昨夜、香奈の母ちゃんの店にいたみんなにも心配をかけた。後で飲み会のお礼も含めてメールしておこう。しかし、人間の勘なんていい加減なものだ。受話器を話していても聞こえそうな相沢の声に、嫌な予感など吹き飛んでしまった。
 再びカートを押して周囲にある品物を物色しながら母親の後を歩く。一通り食料品売場を回り、混雑し行列の出来たレジの最後尾に並んだ。次の瞬間、店内の人混みの中で知っている人物を見つけた。いや、見つけてしまった。さっき感じた嫌な予感は的中したのだ。悟志だ。
 僕は無意識のうちに何度も舌打ちをしている。凝視する先の悟志、視界には入らないが一人ではない様子だ。”まさか…”僕の心を様々な憶測が飛び交う。隣に居るのは結子なのか?僕と同じように母親と買い物か?会社の仲間か?香奈?僕は最初の憶測を消すために必死だ。だが、無駄だった。僕の視線が捉えたのは結子だったのだ。
 会いたかった結子。会いたくなかった悟志。この偶然の再会に僕はどうしていいのか分からない。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ