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□〜プラネタリウム〜
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 月曜日、僕の初出社の日。カーテン越しに見える光が季節外れの温かさを感じさせる。今朝は緊張していたのか目覚ましよりも早い時間に目が覚めていた。引っ越しの荷物も一通り片付き、姉も義兄と仲直りしたらしく2日前に何事も無かったかのように帰って行った。
 僕は階段を降りキッチンへ向かった。
「おはよう。早いねえ、寝れんかってや?」
 母親が朝食の準備をしながらそう言った。
「いや、大丈夫だよ。」
 僕は冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出しながら答えた。母親は僕が高校生の頃までは看護士をしていた。あの頃は当たり前だと思っていたが、朝食の準備も相当大変だったのだろう。過労が積み重なり体を壊して看護士を辞め、それからは主婦業に専念しているのだ。歳を重ねる度に様々な有難さを実感していく。
「なんか手伝おうか。」
「いいけん、あんた自分の準備しなさい。」
 結構あっさり返された。当時同じ事を言えていたら随分助けになっていたのだろうと思いながら追い出されるように部屋へ戻った。

 朝食を済ませて新しいスーツを羽織り、洗面所の鏡でネクタイを確認した。1度経験はしているがやはり初日はもどかしい。父親と同じ車で出勤するという不思議な感覚も味わいながら会社へ向かった。
 会社へ着いて、研修期間お世話になる教育係の上司から細かい仕事内容の説明を受けた。そして社長をはじめ各部署の社員の方々への挨拶も無事終えた。父親が勤める会社ということもあって、どういう目で見られるのかと気を張っていたのだが予想外の歓迎ムードに驚いた。しかし、ホッとする反面、父親に恥をかかす訳にはいかないと決意を新たにしたのだ。
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