another story

□〜プラネタリウム〜
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 ようやく言葉を絞り出した。僕は照れるといつも敬語になってしまうのだ。
「ありがとうございます。」
 結子は少し意地悪な笑顔で僕の口調を真似た。昔、告白した時もこんな滑稽な会話だった。お互いにそれを思い出したのか妙に可笑しくなって笑った。
「じゃあ行きますか。」
 僕はあえてもう一度敬語で答えた。そして浴衣姿の彼女の手を握り皆生海浜公園に向かって歩き出す。

 会場に到着し、花火を見る場所を確保して打ち上げ開始時間を待った。小さなシートに並んで座る2人。高校生活最後の夏。海岸から吹いてくる風は蒸し暑い空気を払いのけるようにして僕らを包む。
「慎太郎は卒業したら東京だね。」
 結子は小さな声で僕にそう言った。
 いつの頃からか卒業してからの話は避けてきた。お互いに進路は決まっている。希望の学校に合格すれば来年の春、2人の状況は一変するのだ。
「結子は大阪だもんな。」
 いつもならこの後にどちらかが話題を変えていた。僕も結子も離れたくないという気持ちは強い。だけど選択肢が少なくて、いや…選ぶ勇気がなかったのかもしれない。
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