日独
わさわさと揺れる緑の間から覗くのは真四角に切り取られた色、色、色。
キラキラ、風に揺れて光を受けると紙が宝石のように光った気がした。実際は、どうなのだろうか。
「……何をしているんだ?菊」
「ルートヴィッヒさん」
取りあえずは葉をわさわさと揺らしている原因の人物へと声をかけた。身の丈以上のそれはどう見たって重そうで飾りや葉が鬱陶しそうで、それなのに何という事はなさそうに運ぶ姿は驚きだ。結構なお年なのに童顔であるからこそギャップがというか何というか。とてつもなく形容し難い気持ちをそのまま移して、顔が僅かに歪んだ。
くすり、と菊が笑う。
「七夕の片付けですよ」
「七夕?…ああ、確か昨日にそんなのが、」
日本にあった、気が、する。
酷くあやふやに呟いてルートヴィッヒは頭を掻いた。
正直七夕というものが何時で、一体何をする日なのかとかそういったものを性格に覚えていない。何だか菊に凄く申し訳ない。
「簡単に言いますと、彦星と織姫という方が一年に一度だけ会える日なんです」
「ふむ…一年に一度だけ、か?」
「ええ、そうです」
それでその日にはこうして。
ほうら、と菊は担いでいた笹を軽く揺らした。かさりかさりと音を鳴らして七夕飾りの間から、みみずのような文字が見える。何とも可愛らしい願いから、夢のようなもの。中には現実的なものまで。ルートヴィッヒは眩しそうに目を細めた。
「願い事か」
ふふと笑う姿を視界に入れながらぼんやりと考えた。
そういえば、菊も何か書いたのだろうか。
普段からそういった事を口にしないので非常に興味がある。ゆっくりと短冊というらしい紙を目で辿るがそれらしき物は見えない。かさ、とまた笹の葉が鳴った。
「……書いていないのか?」
「はい?」
「いや、菊。お前は書いていないのかと思って、」
「ああ、私ですか」
それに菊は破顔した。
私ならもう願い事を叶えてもらってますので、と。
いったい、何だ。つい首を傾げるとある事に気付いた。その菊の視線はずっとこちらを向いていた。ずっと。
「……っ!」
漸くその意図に気付いた時には顔から湯気が出そうだった。あ、ああ、とひどく動揺した声に笑い声が静かに重なっていた。
(―――私の願いは、ルートヴィッヒさんが隣に居て下さる事ですので)
きらきら、たからもの
(あ、その…お俺も、だ……)
(…っ!!)
(?……き、菊??)
(なんて可愛い事を仰るんですか…っ………萌え…!)
(??!)
end.
後悔はして、ない……筈←
七夕当日の話じゃないのは決してネタが浮かばなかったからでは(ry