透明カレイドスコープ

□空からの再会
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「困った。ああ、困ったな」



そう言うのも何度目か。つい十日くらい前にも似たようなことを言った気がする。とは言え先日みたいに今にも死にそうというわけではないが。



「ふむ、向こうか」



少し遠くに見える街。遠くといっても半日もあれば辿り着ける。それを私は木の上から見ていた。高さにしたら二十メートルはあるか、普通の木よりは高いのは確かだ。方向も確かめた。ゆっくりと降りようかと、足をズラしたときだった。最も気を付けていた事が起きてしまった。



「――っ!」



この状態では譜術でブレーキをかけるのは無理か……周りに木が多すぎる。枝が折れて私に当たる確率の方が高い。だがこの高さから落ちてはただでは済まない。



「……んっ?……運命など信じぬが……」



下に見えた影。これをデジャヴと呼ぶか運命と呼ぶか、それとも必然か。ただ見えた影は一つではない。



「そこをどけ!危ないぞ!」



この声が届いたのか全員が上を向く。全員が全員驚いているが一人だけ、すぐに表情を変えた。そう、呆れた表情だ。まあそうだろうな。



「ジュード君、エリーゼ姫。ちょっと下がってて」
「えっ?アルヴィン?」



左右にいた少年と少女の肩を押し、自分の側から離し場所を空ける。そして私はそのまま彼の上へと落ちる。ドスンと、大きな音が鳴る。



「やあ、アルヴィン。二週間振りか?」
「……なんでお前は上から降ってくんだよ」



出会い当初と同じように降ってきた私を受け止めたのは、このリーゼ・マクシアに突如来てしまった私を世話してくれたアルヴィンだ。いつかまた旅をしようと約束してたった二週間で再会するとはなんたる偶然。



「アルヴィン……この人は……」
「ほぉ、空から人が降ってくるのか」
「なにこれー!変な人ーっ!」
「てぃ、ティポっ!」



離れていた者たちもわらわらと側へと寄ってくる。誰も興味津々の目をしている……唯一気になるのは言葉を発したぬいぐるみ。譜業のような機械みたいなものが入っているのかも知れないな。



「アルヴィン。下ろしてくれ」
「へいへい」



地面へと下ろしてもらう。ふむ、随分と綺麗どころを揃えたようだ。綺麗系から可愛い系までいるとはな。彼らをぐるりと見回せば美女以外がビクッとする。



「あなたはアルヴィンの知り合いなんですか?」
「どーしてお空から落ちてきたのー?」



まず訪ねてきたのは黒髪の少年。その周りを飛んでいるぬいぐるみが後を続いた。見れば見るほど面白い。



「ミラ様たちと会う前まで一緒にいたんだよ」
「これでも命の恩人だ。残念だからな」



ぽんぽんっと私の肩を叩くアルヴィンに溜息を吐く。一方アルヴィンは、残念とか言うなよ、と肩を落とす。



「自己紹介が遅れたな。私はフィリンシア・アラングラ。フィリンでよい」



黒髪の少年へと手を差し出せば、よろしくと握り返す。彼はジュードと名乗った。金髪美女はミラ、少女はエリーゼ、ぬいぐるみはティポというらしい。どう経緯でこの樹界にいるのかは、何となく察しがついてしまった。



「キミらか、先日イル・ファンの研究所に不法侵入した輩は?」



図星だったのか、ジュードはあからさまに驚きを露わにし、ミラの表情が険しくなった。正確に言うならばこの二人が不法侵入者と言うことか。何ともわかりやすい……いや、ここには私らしかいないからか。他の者の目も耳も気にする必要がない。



「相変わらず察しがいいな」
「あれだけの騒ぎだ。それに外の検問を避けて樹界に入るような連中だ」



それしか考えられんだろ?と推測を口にすれば、お手上げと言わんばかりに両手を挙げるアルヴィン。ジュードとミラに至っては険しい表情のまま。



「だかお前も何故この樹界にいる」
「ただの興味だ」



さらりと言い退けた私にキョトンとする。



「通行書は持っている。が、樹界の中を歩くのも面白いと思った」
「んで空から降ってくんなよ」



クレインからもらった通行書をバッグから取り出し見せる。理由をきちんと述べたというのに、アルヴィン以外の全員が目を丸くした。



「ああ、ミラ様たちは知らなくて当然だな。こいつかなり変わってんだよ」
「それに関しては一切の否定はせんよ」



不安そうにするエリーゼを庇うように立つジュードに向き直る。彼自身も不安を顔に滲ませている。



「別にキミらをどうこうするつもりはない。興味はあるがな」



クスリと笑えばアルヴィンがそっぽを向く。興味という言葉に反応しただけだろうが。が、彼らはそうではなく、警戒心を露わにした。当然と言えば当然だがな。



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