◆Novel◆
□さようなら
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「千種、犬、貴方達は逃げなさい」
冷たい風の吹く荒野。
僕等は狼から逃げる哀れな子羊、もとい脱獄犯。
「むくろしゃん…」
「骸様…」
発した言葉はいとも簡単に闇にのまれ、
感じていた無力感をよりいっそう強くした。
「僕は怪我をしています。このままでは三人共捕まってしまう…
僕が囮になるので、貴方達だけでも…」
「いやれす!むくろしゃんもいっしょににげるんれす!」
「犬…!」
目に大粒の涙をためた犬に声をあげると。
僕の目からも、もう枯れたはずの涙があふれていた。
「骸様が、決めたことだ…」
ただ、そう言うのが精一杯だった。
「二人共、泣くことはありませんよ。
最後の別れというわけでもないでしょう?」
骸様は、優しく微笑んだ。
僕等は壊れたおもちゃのように、
何度も何度も頷いた
「さあ、奴らが来る前に、早く!」
背中を押された僕と犬は、必死で走った。
暗闇のなか、あてもなく。
止まったりしては──
振り返ったりしてはいけないような気がした。
さようなら、骸様
さようなら
さようなら
さようなら
その時、
オッドアイの黒猫が一匹
走る僕等の背中を見つめて寂しそうに鳴いたのは──
きっと気のせいじゃなかったんだ
[END]→後書き