スギレオ小説

□Our song, the song of all
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「ああ、うまくいかないなあ」




○僕らのうた、みんなのうた○




「なにが?」
レオがカップを持っていかにも「?」と言わんばかりの顔をして近づいてきた。
「いや、べつに。なんでもないよ」
僕はレオとは逆方向を向いた。レオはあっそ、といって立ち去って行った。
僕は今、さなえちゃん頼まれた曲を作っている。
彼女が提案してきたテーマ、それは「子供向けのうた」というものだった。
それを聞いた瞬間、断ろうかと思った。
だけど、彼女のあの笑顔を見ると、つい引き受けてしまっていた―そんな感じだろうか。

僕ははあ、と息を吐きレオのほうを向いた。
「レオ」
僕がそう呼ぶとくるっ、と振り向きもし彼にしっぽがついていたならば、振っているだろうと思うような素振りで近づいてきた。
「なあに」
「…僕にもなんか煎れてよ。コーヒーとか」
「んー、いいけど」
彼はにやりと僕のほうを見直した
「そのかわり今やってること教えてよー」
「はあ?なんで」
「だって、気になるんだもん。それにスギ、なんか思い悩んでるみたいだし。眉間の皺が消えてないよ、最近」
はっ、と僕は自分の眉間を触ってみる。…確かに。
「あああ!もうどうすりゃいいのさ!」
意味もなくばたばたと手足を動かしてみる。


「…どうしたの?言ってみてよ」
僕は数秒間考えてみた。
どうして考えもしないで引き受けたりしたんだ。
どうして僕は言えずにいるんだ。
どうして悩んでるんだ?
「…レオ、あのさ」
ピンポーン、と鳴った。
それは聞き覚えのある玄関のチャイムの音だった。
「誰かきたみたいだね、見てくる」
僕は慌てて引きとめ、いいよ僕が行く、と言って立ち上がった。


「はい、どちら様」
ガチャリ、とドアが鳴った。
「あ…さなえです。」
ドアの隙間から見えたのは、僕が今悩み続けていることの当本人だった。
「わ、さなえちゃん」
ドキリとした。まだ何も出来てない僕に彼女はなんというだろうか―。
「…え、と。とりあえず上がりますか?」
僕は何げなく笑ったが、かなりぎこちなかったのが自分でも解かった。
「あ!特にたいした用ではないのよ。ごめんなさい、お邪魔だったかしら」
背中に一筋の汗が伝った。冷や汗だ。

「さ、さなえちゃん」
「何?」
きっと彼女は無責任な男だ、とでも思うのだろう。そう思いながらも口を開いた。
「実はこの間言われていた曲なんだけども」
「え?…ああ、あの曲ね。あれもういいのよ」
「へ?」
かなり間の抜けた声がでた。それ以上に腰が抜けそう。
「あの時ね、実は私のほうに曲を頼まれていたの。でもなかなか曲ができないから、スギくんに頼んでいたの。ごめんなさい」
彼女は口に手をあてて軽く笑った。
「でも、あれカヴァー曲にすることにしたのよ。そうしたらOKだしてくれて。」
本当にごめんなさい、と彼女は言って「これ差し入れよ」と4個入りのマフィンをくれた。
僕は暫らく玄関に突っ立っていた。
そのうち遅いと思ったらしく、レオが来た。
「なに、だれだったの」
「・・・・・・・・・・あ。」
「え?」
「曲が…できた。」

もう必要の無いはずの子供向けの歌が僕の脳内に舞い降りた。
僕はばたばたとギターを引っ張りだしてきて、
その曲を歌ってみることにした。
「ちょっと聴いてて」
黙ってレオは頷いた。


…ああ、なるほど。
いざ、出来て歌ってみると、なんだかこういう歌を聴く子供の顔が浮かぶようだった。
そういえば僕も子供の頃、童謡とかうたったっけ。


「こういう唄も、たまにはいいね」
「でしょ?」
僕らは笑みを交わして、もう一度歌った。
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