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□第一章 喜劇から始まる悲劇
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悪逆非道と名高い黄の国の王家に、教会の鐘に祝福されながら、男女の双子が誕生した。
 
「女王様! 良かったですねえ。双子ですよ。元気な女の子と男の子…、あ」
 
双子のうちの一人を抱きかかえた助産婦であろう女性が嬉しそうに話す。だが、男の子、と言ったところで表情は一変した。
 
「男…?」
 
出産を終え、肩で息をしていた女王は、その言葉を聞いて眉間にしわを寄せた。
 
「そう。男のほうは始末なさいな」
 
すぐに興味を無くしたかのように冷徹に命令を下す女王。まるで、男のほうは我が子ではないかのように。
その命令を聞いた下女たちは、必死で王女に頼むのであった。
 
「お、お待ちください女王様!! あんまりでございます! せっかく産まれた小さき命にございます! どうか、どうか…!」
 
 
* * *
 
 
それから九年後。
 
女王の娘であるリン・ヴィ・ライニィは、あの日殺されるはずであったレン・ド・グアードと、城にあるリンの部屋で仲良く遊んでいた。
 
そう。喜ばしいことに、レンは生き残ることができたのだった。
この国では代々女性が頂点に君臨することが掟となっている。男性が玉座に座るなど言語道断。国が滅亡するという古くからの言い伝えがあるのだ。
 
特に、男女の双子の男や女王の息子となる者は、国を滅亡させる以外にも不吉な何かがあるらしく、産まれて間もなく殺されるのだ。
レンは運良く使用人や下女たちが女王を説得したことにより生き延びたが、実際はそうはいかない。
彼の生き残りは、ある種の奇跡でもあった。
だが、生かす代わりにレンは王位を剥奪され、王家の者としては暮らせなかった。
 
レンはグアード家の者となったのだ。
 
「レン」
 
「父様」
 
戸籍上はレンの父である、メインティ・ド・グアードがレンを呼んだ。
父様と自分を呼んだレンに「城では先生とお呼びなさい」と軽く注意をし、本題を持ち出した。
 
「これから勉強の時間だ」
 
「とう、…先生、でも僕まだリンと遊びたいです」
 
「リン様とお呼びなさいと何度言ったら分かる? さあ、早く」
「メインティ卿! レンはまだ私と遊ぶの。だから連れていっちゃだめ!」
 
リンが言う。メインティは「ですが…」と食い下がった。
するとリンは最終手段を持ち出す。
 
「メインティ卿、女王の娘である私の言うことが聞けないって言うの?」
 
さすがにこれにはメインティも言葉に詰まった。
リンは、これでまたレンと遊べる。そう確信したのだが。
 
 
 
 
 

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