白黒姫

□少女は願う
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シェリアは水面を水中から見ていた。








父親である魔王に城から出されて随分と長い時が経った。

シェリアは少女から美しい女へと成長していた。
だが大人というにはまだ幼い容姿をしている。
せいぜい17か18歳ほどの外見だ。

月の一族の者はこれ以上はしばらく成長しない。
それは闇の一族も同じこと。
きっとクレアも一番美しい外見で時が止まっているだろう。



シェリアは今、魔王の魔法によって湖に沈められていた。

見えるのは水面に揺られて湖の上で輝く月。
そして小さな魚。

息は出来るが、魔法によって手足は動かない。
ただ横になって水中に差し込む光を浴びる毎日だ。

これでどうやって私を絶望に落とすつもりなのか。
最初、シェリアには分からなかった。

だが、今なら分かる。

城にいた時には何も聞こえなかったし何も見えなかった。
だからクレアに外の世界の事を聞いてもいまいちピンとこなかったのに。

シェリアは見てしまった。
外の世界を。

感じてしまった。
そよ風を。

聞いてしまった。
小鳥のさえずりを。

そして、月の光を浴びてしまった。


そして思う。
長い、長すぎる年月をこのままで過ごすのか、と。

森の外はどうなっているの?
ここではそよ風にあたれないの。
小鳥の他にどんな動物がいるの?
ここではお魚しか見えないの。
ここでは何も聞こえないの。



そしてシェリアは気付いた。
魔王の狙いはこれなのか、と。

何も知らないシェリアに、外の素晴らしさを教えた。

生まれた時から牢獄にいたシェリアには、牢獄がどんなに寂しい所かすら知らなかった。

月の一族の血を強く受け継ぐシェリアには、月は何よりも愛しいもの。

しかしシェリアは知らなかった。
月があんなに美しいことを。

シェリアは知らなかった。
外の世界が美しいことを。


そしてシェリアの心には気持ちが生まれた。
気持ちが生まれ、『欲望』という願いが生まれた。

外の世界をもっと見たい。
ここから出たい。
走ってみたい。
笑ってみたい。

もっと普通に、生きてみたい。




シェリアの蒼い瞳から、一粒の光が零れた。
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