* 捧げもの *

□『ロマンチックにはほど遠いけど、』
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日本人は地味で真面目な国民性だが、イベント毎は大好きだ。

クリスマス、正月、バレンタイン、ホワイトデー、花見、最近はハロウィンも盛り上がりをみせつつある。
そのほかにもやれ誕生日だ、付き合い記念日だと個々のものまで含めたら、一年中祝ってるんじゃないだろうか。


「こうゆうのを流すから余計感化されるんだよね」


この時期特有の製菓業界のCMを見ながら呟くと、隣から「えっ」と、小さな悲鳴が上がった。


「なに?春市」

「あ、ううん!なんでもない…」


慌てて目をそらした春市に、なんでもないことないでしょ。と言い掛けて、亮介は口をつぐむ。
春市が不自然に手繰り寄せた、ここに来る前に買ってきたとおぼしき白いコンビニ袋に透ける、あるものに気が付いたからだ。


(…ふぅーん)


思わず頬が緩みそうになるのを堪え、ソワソワと落ち着かない弟に気付かぬフリでテレビに戻る。

知らん振りを決め込んで春市の反応を見るのも楽しいとは思うけど、きっとこれ以上ないほど真っ赤な顔でレジに並んだ勇姿が目に浮かぶから、この場での意地悪はなしとしよう。

いやむしろ、付き合い始めて最初のバレンタイン。いつもあまり興味がない自分だって、多少は、いや実は結構気になっていたのは事実だし。
でも男の春市にそれを求めるのは酷だと解ってるから、全然期待していなかった。


亮介の否定的ともとれる発言に、泣きそうな顔で恐ろしく恥ずかしい思いをしてまで買ったであろうチョコレートを隠す春市が愛しくてたまらない。
感情のまま抱きしめたいのをひとまず耐えて、亮介は自分の言葉を撤回する。


「でも結局、製菓業界の陰謀に嵌められて期待しちゃうんだよね」

「…兄貴でも?」

「そりゃそうだよ。今年は何個貰えるかな?好きな子がくれたら嬉しいな、とかさ」


結局くすくすと笑ってしまった亮介に、途端春市が複雑な顔でコンビニ袋を手に取った。


「……見えた?」

「何が?」

「………嘘つきー」


今更とぼけてもあとの祭り。ぷーっと頬を膨らませた春市が袋を覗く。
長い付き合い、亮介が綺麗なラッピングに気が付いたように、春市もまた亮介が感づいたことを察して残念そうにため息をついた。


「ごめん、見えちゃった」

「…次は隠してくる」


己の不手際にしょんぼりする春市に、亮介は、じゃあ、と言って目を閉じた。


「今からでも隠してよ。探すから」

「宝探しみたい」


少し機嫌を直した春市がくすりと笑う。


「隠す場所は春市の体限定ね」

「それじゃ、すぐ解っちゃうじゃん」


困った声の春市に構わず手を伸ばす。


「だって隠してくるんだろ?」

「そうだけど、…って、兄貴!?どこ触ってんのっ」

「んー?宝探ししてるだけだけど?」

「ここにあるでしょ!…ちょっ!あはは!くすぐったいってば!」

「ここってどこ?見えないから解らないなぁ」

「そんなわけ…っ、あははははっ」



日本人は地味で真面目な国民性だが、イベント毎は大好きだ。

特にクリスマスとバレンタインに関しては、由来に後ろ足で砂をかけるような盛り上がり方。
正直ちょっと引くよね、などと思っていた亮介だけど…。

大切な人と少し特別な時間を過ごせるならば、乗っかってみるものアリかもしれない。






……………いや、これは無しなんじゃないか…?


と思っていたかは定かじゃないが。

亮介の部屋から響く、白い袋から放り出されたチョコレートそっちのけでじゃれ合う楽しげな声に、たまたま借りたCDを返しに来てしまった伊佐敷は、己の間の悪さを呪いつつノックし掛けた手を下ろしたのだった…。







-オワリ-






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