* お題他 *

□『誰も知らない恋心』
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目を覚ましたらいつもより少し早かった。
寝なおそうかとも思ったが、それにしては時間がない。しょうがねぇ、時間までゴロゴロすっか…なんてぼんやりしてたら反対側のベッドから後輩の目覚まし時計が大音量で鳴りだした。
そういやアイツ等、明日から早起きして自主練しますとか言ってたっけ。
チッ、と舌打って横向きになる。

が、五秒、十秒、十五秒。
最早なんの曲なのか判別出来ないほどの騒音に、とうとうキレて枕を対角線に投げつけた。

当然送球はストライク。顔面にくらった一年坊主が「ぅぐえ!」と呻く。


「っせぇな!いい加減起きやがれ!」

「す、スンマセンッ」


突如襲ってきた枕に呆然としていた後輩が、伊佐敷の怒鳴り声に慌てて目覚ましをガチャガチャ鳴らす。
ようやく止まったそれにもう一度舌打つと、先に起き出した二年生が恐る恐る近付いてきた。


「すんません、純さん。起こしちゃって」

「…別にいーけどよ。時間なくなんぞ。さっさと行け」

「はい!」


差し出された枕を受け取り顎でしゃくると、もう一度頭を下げてから二人はバットを持って出て行った。

あーもうダラダラしてる気分じゃねーな。
枕を投げて怒鳴ったら、すっかり目が冴えてしまった。

仕方ないので身体を起こし、そのまま軽くストレッチを始めた伊佐敷は、誰もいなくなった部屋の中をぐるりと見渡す。
天井近くから見下ろす部屋は、見慣れた景色の筈なのに少し寂しくがらんとしていた。


「…チッ」


起きてから何度目かの舌打ちをしてベッドから降りる。

しょうがねぇ。折角起きたんだし俺もやるか。
うら寂しさを払うように、立掛けたバットを持って部屋を出た。



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