* お題他 *

□『バカップルへ30題』
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1000HITアンケで頂いた春×沢を目指し玉砕してます^^;
沢村視点。春市無自覚誘い受け。


* 26.補習 *






「あれ?何やってるの?栄純くん」


ホームルームもとうに終わった放課後の教室。
ぽつーん、と一人残されていた沢村は、聞きなれた声に顔を上げた。
廊下から顔を覗かせていたのは、鞄を手にした同級生のレギュラー仲間。隣のクラスの小湊春市。
その見慣れた顔が首を傾げ、沢村は心細さに泣きついた。



「は、春っち〜!」

「え、どうしたの!?」



うわ〜ん!と机に張り付かれ、春市が慌てて教室に入ってくる。
ところが机の上の勉強道具にあっと言う間に表情が変わった。



「…もしかして、補習?」

「うぅ」


こくり、と頷くと呆れ顔から溜息が漏れる。
そして気を取り直し(本人的には)慰めるように笑顔を向けた。



「でも良かったじゃない!赤点取ったら練習時間なくなるし。今から勉強しておけば赤点回避も夢じゃないね!」

「ひ、ひでぇ…」

「え?」


普通にしてたら赤点必死と言っているも同然な毒舌(しかも兄と違って自覚なし)に、沢村はぶわっと涙を溢れさせた。
確かに居残り勉強の発端は英語の小テストが壊滅状態だったからで、春市の言う通り今から補習を組んでもらっても赤点回避は微妙だけれど、微妙だけれど!



「そこまで言わなくても〜!」

「ご、ごめん。つい本音が」

「追いうち〜!?」


フォローどころか深い谷に突き落とされて、再起不能の左腕は机に突っ伏して泣きだした。



「ごめんってば。ね?顔上げてよ栄純くん」


マジ泣きに慌てた春市が宥めようとしゃがみこむが、撃沈した沢村はそんなことぐらいでは浮上しない。



「そりゃ春っちは頭イイからいいけどよ…」

「そんなことないよ。ちゃんと授業聴いて、解らないところは兄貴に教えて貰ってるから」

「何!?お兄さん!?」


ぐずっていた沢村ががばりと起き上がった。

春市の兄の亮介は、現在高校三年生。今自分が苦しんでいる勉強などとっくの昔に終えている。
その亮介に、弟である春市が勉強を見てもらっていたとしても不思議なことではないのだが。
強力な味方のいない沢村としては、「ずりぃ!」と叫ばずにはいられない。



「何で誘ってくんないんだよ!」

「だって、栄純くんのレベルだと絶対兄貴がキレるから」

「………」


とうとう無言になってしまった沢村に、春市はしまったと口許を抑えた。



「あ…っ。だからね、ええと、兄貴ってイチから教えてくれるタイプじゃないし。だけど理解出来ないと…その、怒るんだよね」

「…怒る?」

「うん、ニコニコしながら目を合わせてね」


言いながら春市は組んだ腕を机に乗せて、その上に細い顎をちょこんと乗せた。その体勢のまま起き上がっていた沢村を真っ直ぐ見る。
顔を上げた事によって薄い色の前髪が横に流れ、日頃隠されている大きな目が見えるんじゃないかと息を呑んだ。

そんな絶妙のタイミングで、春市が片手を伸ばし沢村の手の甲に指を当て――沢村の心臓がどくんと跳ねる。



「は、ははは春っち?」

「シャーペン持ってる手を握って、」


慌てる沢村にお構いなしに、心なしか気だるげに囁かれ、沢村はヒィィと内心悲鳴を上げた。

恋愛関係に疎い自分でも、ゴツイ、むさい、暑苦しいの野球部の中で、ヒロインオーラを放つ片方(もう一人はお兄さん)にイケナイ想いを抱いている連中がいる事は知っている。
自分にはそういう趣味はないはずだけど、こうやって女みたいにキレイな顔で見つめられたらチューのひとつもしたくなるというものだ。


(…って、違う違う!春っちは友達じゃねーか!)


慌てて否定する辺り、既に底なし沼にはまった感があるのだが、焦る沢村は気付かない。
だけどこのままでは何かまずい、危機感に手を引きかければ春市の指に力がこもった。



「ちょ、はるっち…」


手ぇ離してくんね?と苦笑い気味にもう一度顔を見た途端。
一体なんの呪いなのか、窓から入った風によって春市の大きな瞳が露わになった。



「!!!!!」



ほんの一瞬、されど一瞬。上目遣いで何故か潤んだその瞳は青少年の心と下半身を疼かせるには十分で、先ほどの抵抗が嘘のように沢村の理性メーターが一定方向に振りきれた。

…うん、そっか、そうだよな。
友達でもチューぐらいするかもしんない!

いやいやしないでしょ。そう冷静にツッコミをいれる相手は現在自分の手を握りキスを迫っている。

最早なんの話をしていたんだか忘れ去り、すっかりイケナイ方向に傾いた沢村を止める者はいなかった。
そんな沢村に追い討ちをかけるように、再び風が明るい髪を柔らかく揺らす。



「…は、はるっち」


緊張に声を奮わせながらも細い指を逆に握ると、春市が優しく微笑み返す。
そう、微笑み返してくれたのに。



「ってぇぇぇーー!!?」


直後、春市に握られていた手の甲に痛みが走り、沢村はぶんぶんと手を振って悲鳴を上げた。
見れば最も痛みを感じた部分がくっきりと赤くなっていて、思わず取り上げた手にふーふーと息を吹き掛ける。
ヨコシマな想いを感じ取ったからなのか、春市が薄い甲を思いきり抓ったのだ。



「あはは、ごめんね、痛かった?」

「い、痛いに決まってんじゃねーか!何すんだよ!」


無防備だっただけにチャチな攻撃でもかなり痛い。いや、どっちかっていうとお預けをくらって心の方が痛いけど。
しかしそんな事に気付きもせず、春市はごめんねと両手を顔の前でぴたりと合わせた。



「あのね、これは兄貴の真似なんだ」

「は?」


涙目で恨みがましく見てやれば、春市が困ったようにくすりと笑う。



「うん。“俺が教えてやってんのに何で解んないの?”ってさ。しかもあの笑顔でだよ!ね、スパルタでしょ?」

「………」


…そうだった。お兄さんに勉強を教えてもらう話をしてたんだっけ。
ようやく事の次第を思いだし、沢村は頬を引きつらせた。

曰く、亮介は教えてる相手の理解が低いと、ああやって笑顔で制裁を加えるのだという。
そういえば以前、伊佐敷が「どんなに困っても亮介にだけは教わりたくねぇ」と苦虫を噛み潰したような顔をしていたことを思い出す。弟相手にこれなんだから、赤の他人相手じゃ容赦の欠片もないだろう。

ぞっとする反面、真似てみせただけの春市に沢村はがくりと肩を落とした。

とりあえずアレだ。勘違いで手を出さなくて良かったよ。うん、良かった。
空しさに包まれながらもポジティブな方向に持って行こうとしていると、席を離れていた英語の教師が戻ってきた。



「進んでるか沢村〜!…お、小湊に教わってんのか?」

「あ、すみません!…じゃあ俺行くね。頑張ってね栄純くん!」

「…おう」


甘い雰囲気など微塵も残さず(まぁ元々なかったのだが)、春市がけろりと立ち上がる。
入ってきた教師にぺこりと頭を下げて、教室の入り口で一度振り向き笑顔で手を振ると軽やかな足取りで去って行った。

それを見送った沢村は、重い重い溜息をついて。



「………やっぱり春っちって、」

ヒデェ。


そう呟く青少年の心には、深ーい傷が残されたのだった。









-オワリ-






春×沢、という友人の無理難題リクエスト(笑)に応えようと、15巻の春様代打シーンを読み返して攻め気分を盛り上げたんですが!
…結局子悪魔系誘い受け春っちになってしまった
げ、限界デス;



2009/6/21 ユキ☆

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