* 倉亮 *
□『興味10%、無関心90%』
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やたら視線を感じたけど。
それが何?って思ってた。
*興味10%、無関心90%*
練習を終えて、風呂に入り。食堂に向かうと純達がやたらと盛り上がっていた。
「どうしたの?」
いつものように輪に入る。
正面に座ると、それを待っていたように米粒を飛ばす勢いで純が話し始めた。
「それがよぉ」
「ちょっとやめてよ。汚いなぁ」
「飛んでねぇだろ!…だから!そろそろ中坊が見に来る時期だよな、って話」
「あぁ…。そだね」
「なんだよ、気になんねぇの?」
「別に」
目の前のご飯三膳にゲンナリしつつ、少しづつだけど箸で掬う。
お前はチビなんだから、と必要以上に盛られたそれは、俺の許容量を遥かに超えるものだった。
練習もキツイが、その後のコレの方がよっぽどもキツイ。
身体作り身体作り、と言い聞かす俺とは反対に、食事面においては何の心配もなさそうな増子が箸を止めた。
「今日も来てたな」
「ああ、生意気そうなツラした小さいのだろ?」
「小さいは余計」
「てめぇの事じゃねぇっつの」
噛み付く純を軽く無視して、脳裏にその姿を思い出す。
よく見えなかったけど、こっちをじっと見つめてるヤツがいたのは確か。
食い入るような強い視線が印象的で、チラ、と見返したときにはもう背中を向けてたから、顔は全然解らない。
「でもよぉ、お前の事ばっか見てたぜ、亮介」
「そ?気が付かなかったな」
「マジかよ。ひょっとしたらアイツ、セカンドかもな」
どうする?ポジションあぶねぇかもよ?
何となく視線に気付かぬ振りをすると、純がニヤリと笑って箸を向ける。
その延長線上から顔を背け、どうだろね?と返すと純はつまらなそうに口を尖らせた。
思うに、あの中学生はタイプが違う。
獰猛なイメージはセカンドじゃなくて…どちらかと言うとピッチャーかセンター。またはショート。
内野を重点的に視ていた点から、多分ショート、なんじゃないだろうか。
まぁでも、ショートだろうがセカンドだろうが、それが何?と俺は思う。
体格のハンデをテクニックと瞬発力でカバーして、今の位置まで登って来たけど、今はまだ“一軍”ってだけ。
目指す場所にはほど遠い。
俺達は、来るかも知れない脅威より、今いる位置から這い上がれるかどうかの方が重要だから。
そもそも俺にとっては来年の新人より、再来年追いかけて来るだろう脅威の方が厄介だしね…。
チラリと浮かんだ無邪気な顔を打ち消して、無理矢理ご飯を飲み込んだ。
「どんな新人が来るかじゃない。自分の野球を磨く事が大切だ」
それまで黙々と食事を摂っていたクリスが、似たような事を考えていたらしくぼそりと言う。
その割に無表情の下には誰かが視えているようで、目だけが好戦的に光っていた。
「ま、それもそうだ。…さて、二軍は素振りでもして来るか!」
「…俺も」
「少し休んでからにしろよ」
早々に食べ終えた純と増子が席を立ち、食堂は徐々に空席が目立つようになって行く。
どうにかこうにか見れる程度まで喉に通し、俺もようやく席を立った。
部屋に戻る途中暗いグラウンドが目に入り、無意識に昼間の視線を思い浮かべて苦笑する。
何だか気になる目だったけど、特別捜すつもりはない。
ウチに来なければそれまでだし、もし来れば…多分ココまで上がって来る。
その時は、どうしてあんな目で見てたのか、問いただしてみるのも悪くない。
いつものようにくすりと笑って、小さな楽しみを胸にしまった。
それ以来、あの視線について考える事はなくなった。
-オワリ-
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