* 倉亮 *
□『可愛いひと』
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「ねぇ、倉持。うちの弟、どう思う?」
涼やかというより冷えた目で、亮介さんは俺を見た。
* 可愛いひと *
最近の亮介さんは、どことなく様子がおかしい。
それは常に側にいて、コンビを組んでいる俺だからこそ気が付くような僅かな変化。
一見いつものように練習し、いつものように誰かをからかい、いつものように弟を見守る亮介さん。
でも何かがおかしい。こんなこと言ったら十倍返しは確実だから言わないけど、でも、
…怯えてるような気がするのだ。しかも、弟くんに。
これが普通に、気が張ってるレベルなら別にいい。
俺達一軍、更にレギュラーは常にポジション争いのトップにいるわけだから、蹴落とそうとする連中相手に気を抜いてる暇はない。
しかもここしばらく、亮介さんの敵となるほどの力を持った選手はウチにいなかった。
そんな亮介さんにとって、自分とそっくりなプレースタイルに、ここぞという時の勝負強さを併せ持つ弟くんの存在は脅威だと思う。
その証拠に亮介さんは、今まで以上に努力をしていた。
それはそれで普通のことだし、オーバーワークになったなら、俺が止めてやればいい。相方として、恋人として。
だけど俺が感じる違和感は、そういったものだけではない気がする。
弟くんが関係している、なんてのは俺の直感に過ぎないし、そもそも極度のブラコンである弟くんが、野球関係以外で亮介さんに恐怖を与えるとは…思えない。
とはいえ「何が怖いんですか?」なんて面と向かって訊くわけにもいかず、だからといって見逃す程軽くも思えず。
チラチラ、チラチラ、結果的に双方を見続けていた俺に勘付いたのか、珍しく亮介さんから自主練に付き合って、と誘われた。