Bk(K)
□闇ヘ堕チユク
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「―――貴方は獣姦に興味がおりで?」
目の前にいる男が、そう尋ねる。
この男、先刻から俺をジッと見つめていた(気のせいではない)。本当に、ただ俺だけを見つめていた。
『…恋人が、』
「獣姦嗜好だった訳ですか」
察したらしく、男は胡散臭い笑みを浮かべて穏やかにそう告げる。
おそらくその声色も偽り、なのだろうが。
「なるほど、しかし本の知識では極僅かです。載っていることが少ないくらいでしょう」
確かに。
俺は此所で5時間ほど探しているのに(俺の方こそ可笑しいかもな)、なかなか見つからない。
あったとしても、ほんの二、三行くらいだ。
「私でよろしければ、話して差し上げましょうか。お恥ずかしい話、そういうアブノーマルなことでしたら、沢山知識がありますので」
単なる変態じゃないか、と思った。
そういう男(ヤツ)って大抵は汗臭くて顔が整ってないと想像してたのに、この男は端正な顔立ちだった。それが妙にムカついたのは、内緒。
「獣姦嗜好の方は、変態性欲の一種…マゾヒズムを心の中に潜ませています」
「普段支配している側の立場である自分が、支配されている側の、しかも犬と言う下僕に逆転され、犯される」
男が目を細めた。
にやり、とした笑み。
「マゾヒストにとって、これほどの快楽はございません」
組み敷かれている自分を想像して、羞恥が込み上がり自尊心が傷つく。それと伴って、快楽が生まれる。
―――馬鹿馬鹿しい。
「いつも支配しているモノに支配されるという…異常な興奮、」
ガタリ、と席を立つ。
男が、再び俺を見つめる。
先刻とは違う瞳の色に、俺は何だか胸騒ぎがした。
「貴方の御仕事は?」
(突然、何なんだ?)
不審に思いながらも、俺は渋々明かした。
『N企業の課長ですが…』
「課長様でいらっしゃいましたか」
空気のように読めない、この男の思惑。
気付けば、隣に座っている。
縮まる距離に、俺は頭の中でサイレンが鳴り始めていた。
「課長様ならば……貴方も堕ちるのでは?」
何を、と聞く前に、男が歪んで微笑みをした。
「獣姦に。」
そう言い終えた男の目が、次第に黒から黄色へと変わっていったのは、俺しか知らない。
:)闇ヘ堕チユク。
*End*
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初めての獣姦。ちゃんと資料なるもの(本)を買ったのですが、それを買うまでの勇気と財布との葛藤が……。苦笑
読破有り難うございました。またお会いしましょう。
20090812,芹澤